村上春樹著 「職業としての小説家」新潮文庫-感想
本を読んだ感想になります。
【注意】本文より引用、一部ネタバレも有ります。
長くなったので4ページになりました。時間あるときに読んでいただけると嬉しいです。
特に小説を書くための出発点ともいうべきところ、
第5回「さて何を書くべきか」が興味深いので、そこを起点に記事を書いています。
以前に【感想1】として「さて何を書くべきかを読んでマテリアルについて考えた」、
【感想2】として「マテリアルは細部の記憶-ヴィークルは言葉と文体-キャラクターは物語が決める」を書きました。
村上さんの作法を探るべく考察してきましたが、正直謎が深まるばかりです。
なので3回目は絵画と対比することで、手法に接近したいと思います。
小説がマテリアルをあつめてテーマを言葉で表現するとしたら。
絵はテーマを決めてそのディテールを絵具をもちいて描く作業。
表現方法の違いから、小説を書くことについて考えてみました。
推測を元に分かる範囲でまとめを書くことにしました。
*今回は「ディテール」という言葉に注目しています。
【ディテールとは】詳細、細目、細部。 出典:広辞苑第六版
村上文学を考える視点を「ディテール」に変えてみた。
ディテールの積み重ねが作品を良くする。
言葉は伝達には向いているが、概念を表現するには高い技術が必要。
文章を書く作業は言葉をつかいます。
しかし言葉でテーマを表現するとしたら簡単でしょうか?
簡単ではありません。
なぜなら言葉に“あらたな意味”を加えなければいけないから、ではないでしょうか。
普段経験した事柄がマテリアル(素材)となる。
あくまで“意味を持つ”一つの事例として、サンプルとして。
村上さんがマテリアルについて書いている所がそれを物語っている。
小説家を志す人がやるべきは、素早く結論を取り出すことではなく、マテリアルをできるだけありのままに受け入れ、蓄積することであると僕は考えます。
P124
ここでのマテリアルとは事実・事象。
素早く結論を出さず蓄積することで、頭の中で熟成されるのでしょうか。
小説は「マテリアルに概念を加えないといけない」ので、マテリアルをだした理由が必要。
読者の中にマテリアルを登場させることで、作者のテーマを読者に連想させなければいけない。
普通作家はテーマを順序たてて説明することで、読者が概念を理解する助けをしています。
村上さんが小説を作るにあたって心がけているのは「説明をしない」ということだという。
物事を説明しないで物語をつくっていくとはどういう作業なのでしょうか?
小説を(説明しないで)作るための作業とはなに?。
本の中にヒントがありました。
①マテリアルを集めること。
②新しい言葉と文体を作ること。
③断片的なエピソードやイメージ、このような言葉を小説の中に放り込んで立体的に組み合わせていく。
④作業を進めるにあたり音楽が大事でリズムが大切。
⑤キャラクターが自分から動き出すようにする。
*村上さんが小説を書き始めた初期には、この作業を大切にしていたそうです。
*③の立体的に組み合わせていくという部分が気になります。
説明しないで表現、思い浮かぶのは「絵画」
絵の対象物(テーマ)は以前見たことがあるもので・思い浮かぶものが多い。
なので鑑賞するひとは、作者が(彼の視点で)どう作り変えているのかがわかる。
作品の良しあしを感覚的に(直感的に)評価しやすい。
ですが小説を説明しないで対象物を表現しようとしたらどうすればいいのでしょうか。
テーマをおおまかに決めたら、そのテーマに合うマテリアルあつめる。それから物語をつくる。
対象物が見えるものではないのでイメージをつくりあげるのに工程や技術が必要。
小説は道具(言葉)を使い物語を表現するので、手間がかかる。
(言葉の脈絡がつながっていないと意味が分からない厳しさもある)
小説はマテリアルをあつめてつなげても物語として相手に伝わるものにはならない。
さらに細部を書いていながら、その細部を意識させないような物語に仕立てるのは容易ではないと思う。
(言葉で説明しないでテーマを伝えることの難しさがある)
さらにディテールについて続きます。