*「大聖堂」レイモンド・カーヴァー著-村上春樹訳を読んだ感想になります。
12本の短編で構成されています。しっかりと心に響いてくる物語です。
日本的な感傷的表現に頼るものでなくはドライな感じ。あくまでも現実に即したリアルな表現。
うまく言えませんがアメリカ的だと思いました。
・村上さんの評価の高いカーヴァーの二つの作品について感想を書きました。
「大聖堂」「僕が電話をかけている場所」です。
*【注意】ネタバレがあります。
物語の意図について推測しています。小説を読んでから記事を読むことをお勧めします。
大聖堂(カセドラル)
簡単なあらすじ
主人公は夫である「私」、今度私の家に昔「妻と親しかった盲人のロバート」が家に泊まりに来るという。
ロバートは以前より妻とやり取りが続いていて特別な存在。
私は妻との関係に嫉妬心もある。
私は会う前から「ロバート」のことは妻から聞かされているとはいえ、壁はある。
家に盲人のロバートがやって来た、彼と食事を共にし話をする、彼に対しての印象に大きな変化は無かった。
妻の彼への対応も気になる、 意識してない部分での偏見も出てしまっているようだ。
私は「ロバート」とつながりを持つために、自分が使っている大麻煙草をすすめる。
私にとって彼はいままで“あったことのない相手”で戸惑いもある。
盲人とはいえ内側が見透かされているよう気もして気持ち悪い。
妻は先に寝てしまい、私はロバートと二人になり裸の人間として向き合うことに。
そんな時何気なく見たTVにうつっていた大聖堂、私はその姿を盲人に言葉で教えようとするが伝わらない‥。そこで私は紙の上に大聖堂をあらわすことで彼に伝えようとする。
目を閉じたまま空に向かって伸びる大聖堂を二人が描いていく。
感想
物語の終わりに夫と盲人ロバート・二人の関係に変化が生まれる。
二人きりになりTVには「大聖堂」が映っていた。
夫は盲人ロバートに対して言葉で大聖堂を説明しようとするが上手く行かない。
二人は手を重ねることで紙の上に大聖堂の形を書こうとした。
なんとか書ききることができ、深いところでの共鳴がありイメージを共有出来た?。
そうしてえた彼らの変化は、妻の想像をはるかに越えていた。
言葉にも頼らず視覚にも頼らないで、TVに映る大聖堂を書き写すという不思議な経験、その一瞬を描いている。
私の目から彼の手へ、お互いの心がTVに映る大聖堂の姿に集中できた時。
二人の間にある壁は姿を消して空に永遠に伸びていく大聖堂が現れた。
その瞬間、あらゆる障害が意味のないものになる。
*この小説は、語り手である私と盲人との間にある「非現実的であり現実的でもある大聖堂」を見事に描き出している。イメージを言葉技術を使って感動的に読者に提示する。読者には重層的に響いていくだろうという。
*この小説には差別的な表現、薬物などを想像させる文もあり、そんな時代を描いている。
そして一方では“人間同士が心をあわせ行動することの大切さ”を描いている?。
*村上春樹さんは「大聖堂」を非の打ちどころがなく、彼の傑作の一つだと断言しています。
僕が電話をかけている場所
簡単なあらすじ
僕はアルコール中毒を更正させるアルコール中毒療養所の玄関にいる。
同じくアルコール中毒のJP(ジョー・ペニー)と話をしている。
JP(ジョー・ペニー)から、彼がなぜアルコール中毒になってしまったのかを聞いている。
奥さんであるロキシーとの出会いから幸せな生活を得たのになぜかお酒にはまってしまったことなど。*ロキシーが頬にキスしてくれたのが付き合い始めるエピソードであり素敵な話だ。
僕は自分のことを振り返ると、妻と喧嘩別れしている。
その後ガールフレンドに助けてもらっもののアルコールに溺れアルコール中毒療養所にいる。
更正の場所にいる人は様々な事情があり迷惑をかけていて雰囲気は重い。
僕も妻に電話してみるも出ない。ガールフレンドもどうしているか心配だ。
JP(ジョー・ペニー)の元に妻ロキシーが訪ねてくる。運よく彼女から幸福のキスを受ける。
僕はロキシーの煙突掃除の話から自分の過去を思い出した。
そして再び前を向くことを決意するのだった。
感想
最後にJP(ジョー・ペニー)の妻ロキシーが療養所のJPに会いにきた。
僕はロキシーがJPを愛していることを見た。そして自分と妻の仲との関係性との違いを目にする。
JPと自分の立ち位置が違うことをリアルに知った。
JPは僕と同じようなレベルで深く悩んでいる人ではなかった。
僕は冗談半分でロキシーに幸運を呼ぶというキスをおねだりする。
ロキシーも僕の事情は知らないにしてもJP(ジョー・ペニー)と親しくしている僕に悪印象はなかった?。
一緒に立ち直って欲しいと思ったのか、僕のほほにキスすることをOKする。
僕はロキシーから幸運のキスを受けて機嫌が良くなった。
心の中に新しい息吹が入りこんだ、気持ちに変化が生まれた?。
もう一度妻に電話してみよう。ガールフレンドに近況を聞こう。
彼の心に迷いはなくなった。
他の人の話をじっくり聞くことで気持ちが軽くなる。
自分の生き方を振り返ることで気づきが生まれた。
これが僕の現在地・場所なのだと。
さらにロキシーの煙突掃除がきっかけになり、自分の記憶を呼び起こした。
アルコール中毒で頭が混濁している彼の意識を目覚めさせた。まだ幸せだった自分の意識を思い出すことができた。
友人JP(ジョー・ペニー)と妻ロキシーとの関係は、彼にある種の希望を与えたのかもしれない。
それは愛する人に許されるという希望である。
一方二人の関係に悔しさや嫉妬を感じる、それがふらふらする気持ちに変化を促した。
それは特別な経験だった。僕は“この場所でのこの出会いが幸運を生むかもしれない”と思えた。
*カーヴァーの小説にはしばしばアル中の中年男が登場する。
この短編は彼の不遇時代の自身の経験も入っているのかもしれません。
*村上春樹さんはあとがきにてこの小説を絶賛、この短編中での白眉だと言います。
*最後までお読みいただきありがとうございました。(注意)個人的な感想です。