村上さんにとって翻訳とは?「村上春樹翻訳(ほとんど)全仕事」-感想

*「村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事」村上春樹著 中央公論新社刊 を読んだ感想になります。*(注意)若干のネタバレがあります。

村上春樹さんの翻訳との向き合い方から始まり。
村上さんが翻訳してきた海外の小説・作家の紹介へ。
さらに英文学者の柴田さんとの対談と続きます。
対談の真ん中には短編小説(オーティス・ファーガソン著)があります。
とにかく村上さんの翻訳好きが伝わってくる本でした。

柴田さんとの対談では翻訳の仕事について色々語っています。
翻訳チェック、編集者の話、テクニカルな話。
自分の小説を外国語に翻訳している人の話など
翻訳という仕事について色々知ることができました。
柴田さんは旧知の間柄で小説家なので話が深くて面白かった。
楽しい本でした。

村上春樹さんが翻訳した小説・作家の紹介など。
「翻訳作品クロニクル 1981-2017」

村上さんは今まで70冊くらいの翻訳本を出している。
それは近代アメリカ文学を中心に「スコット・フィッツジェラルド」「レイモンド・カーヴァー」「トルーマン・カポーディ」などの作家さんの小説です。

その小説の翻訳をするキッカケなぜその作家に興味を持ったか作家さんとの縁などを書いています。小説の内容やその素晴らしさを簡単に述べています。
各作家さんの人生や本人に会った時の語りなどはとても興味深かった。

村上さんは翻訳した作家さんの小説に影響を受けているといいます。
特に若くして亡くなった「レイモンド・カーヴァー」の作品は、小説を書く上で参考になったといいます。

*村上さんが「カーヴァー」について書いているところを引用すると、
カーヴァーは「素晴らしい作家」「短篇小説の形を仕切り直した作家」であり、
「カーヴァーの小説が面白いのは、どう進んでいくか分からないところ」
「その動きの中でひとつひとつの言葉が生命を持っていく。」
「自発的で、わくわくさせられる。何か他のものに似ているということがない」ところが素晴らしいという。

本の中盤からは、柴田さんとの対談
「翻訳について語るときに、僕たちの語ること」

村上さんと英文学者・柴田元幸さんとは数十年のお付き合いがある。
柴田元幸さんは1954年東京生まれの東京大学名誉教授。現代アメリカ小説の翻訳多数。
翻訳以外にも小説やエッセイも出しています。

村上さんは翻訳は骨の折れる仕事だと言います。
翻訳の仕事内容やその難しさ、他の人の作品を翻訳するのと自分で小説を書くことの違いなど、深い話がありました。

村上さんは翻訳が本当に好き
翻訳は副業であり自分の小説を書く時とは違う。
好き・楽しい・心惹かれるなど感情が言葉にでていました。

仕事と翻訳との絶妙なバランス感覚がある。
翻訳は息抜きでもある、飽きずにやれるコツがある。

好奇心・行動力が旺盛。
実際に経験したり、人に会ってみることを大事にしている。

村上さんいわく、柴田さんは「翻訳の師匠」とのこと。
二人の対談も本音の応酬?。
仕事上に限らず、私生活でもお互いに尊敬できる関係なのだろうと想像しました。
翻訳の進め方・考え方など、二人の間に考え方の違いもあって面白かった。
村上春樹さんの“翻訳家としての姿”が見えました。

ベースには、ジャズを楽しむのと同様に「書くことを楽しむ」がありました。

対談の間に、村上春樹さんが翻訳した短編が載っています。
「サヴォイでストンプ」オーティス・ファーガソン著

“1930年代における最も輝かしいダンスホール「サヴォイ」での、ジャズと民衆のつかの間の蜜月”を描いた小説。(解説より)

「サヴォイ・ボール・ルーム」とは
ニューヨークにて1926年から1958年まで営業していたダンスホール。
ホールは約4000人が収容できた。
夜になると沢山の人々が来店して、ビック・バンド・ジャズで夜どうし踊り明かすこともあった。
現在その場所には高層アパートメントが建っている。
跡地の前には「Savoy Ballroom Plaque」(サヴォイ・ボール・ルーム記念碑)がつくられた。
(住所は、596MalcomX Blrd (141th St.) New York)

「スウィング・ジャズ」とは
1930年代から1940年代の初めにアメリカで流行った音楽ジャンル。
大人数の編成での演奏。白人が主体となってつくられたものだが、ベニーグッドマンら黒人も好んで演奏した。ジャズ演奏におけるスウィングは、躍動的調子やリズム感のこと。

村上さんが翻訳した作家さん。
(本より抜き出しました)

「スコット・フィッツジェラルド」「レイモンド・カーヴァー」
「クリス・ヴァン・オールズバーグ」「ジョン・アーヴィング」
「ポール・セロー」「C.D.B.ブライアン」
「トルーマン・カポーディ」「ティム・オブライエン」
「マーク・ヘルプリン」「アーシュラ・・ル=グウィン」
「R・シェパード、J・トーマス」「ビル・クロウ」
「マイケル・ギルモア」「マーク・ストランド」
「グレイス・ペイリー」「J.D.サリンジャー」
「ティー・ファリッシュ」「レイモンド・チャンドラー」
「ジム・フジーリ」「シェル・シルヴァスタイン」
「サム・ハルパート」「ジェフ・ダイヤ―」
「マーセル・セロー」「セロニアス・モンク」
「ダーク・ソールスター」「カーソン・マッカラーズ」「ジョン・ニコルズ」

特に「スコット・フィッツジェラルド」「レイモンド・カーヴァー」「レイモンド・チャンドラー」は、思い入れの強い作家さんだと感じました。
(注意:この本が発刊されたのは2017年3月で、それまでに翻訳した本の作家です。
翻訳をしている作家さんすべてではありません。)

*レイモンド・カーヴァーの「大聖堂」を読んでみたい。
村上文学のどの部分に影響が出ているのかを探してみたいです。
また恋がテーマであるアンソロジーの短編集「恋しくて」も。

感想:村上さんにとっての翻訳とは?(推測です)

村上春樹さんにとっての翻訳とは何だろう。
自分が考えて頭に浮かんだ言葉は『挑戦』でした。

・翻訳とは「冒険」であり「挑戦」していくこと?。
海外の小説に書かれているのは言葉が違う世界であり、知の探索として十分な対象。
その小説の書いているニュアンスを正確に伝えるのは難しい。
自分が理解できても読者に伝わらないと意味がない。
文体の違う作家であり新たな発見もある。
生き生きとした言葉で読者の頭にイメージが浮かぶように作る。
それは冒険であり挑戦に等しい。
少々大袈裟ですが、自分はそう思いました。

・日本で一度出版された翻訳本を(時代にあわせて見直しして)出版するのは難しい。
【村上さんは翻訳を通じて】“日本語の小説を読んでいる読者に対しての紹介”はもちろん、これまで“翻訳の仕事をしてきた翻訳者に対しての新しい提案(新訳)”だったり、“以前からの読者に対しての新たな解釈の提供”であったり、“まったく洋書を読んだことがない読者を開拓する”目的があったり、そういう「挑戦」をしている。

・外国の翻訳者が洋書の英語を日本語に訳するのは難しい。
それは外国の人が日本語のニュアンスを理解し表現する難しさがあるため。
出版するための壁もある。
自分が有名になって好きな翻訳の仕事ができるようになったこともあり。
村上さんは自らが翻訳することで補完しようとしている?

村上春樹さんはアメリカ文学などを翻訳することで、沢山の人々に小説の楽しさを知ってほしいのだと思いました。

*最後までお読みいただきありがとうございました。
面白い本でした、是非読んでみてください。
「村上春樹 翻訳(ほとんど)全仕事」村上春樹著 中央公論新社刊を読んだ感想でした。