説明しないで物語をつくるとは?-職業としての小説家-村上春樹著-感想3【ネタバレ有り】

ディテールを作り込むことの大切さを知る

本に登場する「記憶にある事実の細部と個別の具体的なディテール」

僕が進んで記憶に留めるのは、ある事実の(ある人物の、ある事象の)興味深いいくつかの細部です。全体をそっくりそのまま記憶するのはむずかしいから、そこにある個別の具体的なディテールをいくつか抜き出し、それを思いだしやすいかたちで頭に保管しておくように心がけます

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「細部の深い部分で読者をいかに共鳴させるか」がリアリティを生む。

マテリアルをそのまま記憶することは不可能なので、最小限のプロセスが必要。
マテリアルの個人的なイメージは頭の中に在るはず。それに紐つけて記憶する。
これが共感を生むベースとなり説明を省くことが出来る。

村上さんは、マテリアルの細部とは、
「あれっ」と思うような、具体的に興味深い細部で、説明がつかないことの方がいいといいます

個別の具体的なディテールが「説明をしないで物語をすすめるためのカギ」なのでしょうか?

作者のマテリアルの記憶と読者の記憶の中にあるマテリアルと共鳴させる。
そのために作者は最大限の力を注ぐ。

作者のもっているイマジネーションを読者の頭の中に再現する作業のようなもの?
(それは絵画でいえば見たことのある対象物)

これがリアリティを生む。

絵の良しあしはディテールの再現性で決まる。

最近TVプログラムで“絵を採点をするもの”があります。

そこで絵の採点する際に必ず得点評価をされるのが対象物を的確に捉えているかという事です。
絵の良しあしを左右するのはオリジナリティの前に『らしさ』があるかどうかではないでしょうか。
普段見慣れているもの・静物画を例に出して考えると、それを再現できているかどうかです。

質感を出すためには、細かなディテールが大切になります。
対象物以外にも周りの風景や光と影が雄弁に様々なことを語ります。
ディテールがその絵画を語ると言っていいのかもしれません

【絵画】テーマをディテールで表現する。
【小説】ディテールでテーマを表現する。

画家は、デッサンを繰り返すことで対象物(テーマ)から特徴を見つける。
イマジネーションが出来たら構図をとる。
テーマを絵具と筆を使って、自分なりのディテールにかえて描く。
キャンパスに生命を与える。

小説家は、保管しておいたマテリアルから記憶を取り出す。
断片的なエピソードやイメージ、このような言葉を小説の中に放り込む。
立体的に組み合わせていく。キャラクターが自分から動き出すようにする。
細かいディテールでテーマを表現する
それが小説というヴィークルに生命を与える。

*次ページはキャラクターを加えて考察、説明をしないで物語をつくる秘密を探ります。