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さて何を書けばいいのかを読みマテリアルについて考えた-「職業としての小説家」村上春樹著-感想1【ネタバレ有り】

村上春樹著 「職業としての小説家」新潮文庫-感想
本を読んだ感想になります。

【注意】本文より引用があります。一部ネタバレが有ります。

村上春樹著の短篇小説のファンです。
いままで村上さんについてはほとんど知りませんでした。
この本を読むことで村上さんの小説家人生と考え方などについて知ることが出来ました。

村上文学の世界の不思議な世界観に魅了されています。
テーマが文章の後ろ側から透けて見える気がします。

そして村上さんは『そのテーマを読む人に押し付けていない』。
あるメッセージが隠れている。
読み方によって物語の解釈が変わるのを許している?
その文章の巧みさには驚くばかりです。

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この本は村上春樹さんが様々のことを語っています。
小説家の人種、小説家になった頃の話、文学賞、小説を書くテクニック、個人的なフィジカル、キャラクターデザイン、海外挑戦など幅が広く内容も濃いです。

第1回から第12回まであります。それぞれが面白い。
今回は小説を書くための出発点ともいうべきところ、小説家を志す人に向けた書いた文章、
第5回「さて、何を書けばいいのか?」について読んだ感想を書いてみました。

「さて、何を書けばいいのか?」には、マテリアルという言葉が頻繁に登場します。
その“マテリアル”に注目しました。

【マテリアル(material)とは?】*英単語辞書をひいてみました。
(名詞)材料・原料・資源・要素。
(形容詞)としては「重要な」という意味。
動詞の【マテリアライズ(materialize)】になると、(自動詞)実現する、有形になる。
(他動詞)具体化する、などがあり。
(自動詞には)“霊を出現させる”という意味もありました。
*世の中にある有形無形の資源から重要なことを集めて小説を出現させる、
という不思議な解釈も出来そうです。


物作りの現場でよく使われる言葉ではありますが、
「マテリアル」は小説をあらわす言葉としてもふさわしいと思いました。

一般的にはマテリアルとは材料の事。
マテリアルを蓄積することで物語を組み立てていく?
これが物語のテーマを形作るのか?
もしそうだとしたら、どうやって作るのでしょうか。

第5回の「さて、何を書けばいいのか?」を読んでみた

この回は何を書くべきかについて書いているのですが、
村上さんは、小説を志す人のやるべきことに関することを中心に書いています。

小説家を志す人が「やるべきこと」を順番に書き出してみました。

①、最初にあげているのは「一冊でも多くの本を読むこと」です。
読むことで小説の成り立ちを体感として理解できるようになる。

②、自分が「目にする事物や事象を観察すること」(習慣にする)

③、②について「あれこれ考えをめぐらせる、結論みたいなものは先送りする。

④、(③で考えた)「ものごとのありようを、素材=マテリアルとして、なるたけ現状に近い形で頭にありありと留めておく。」いいかえると、

自分が目撃した光景を、出会った人々を、あるいは経験した事象を、あくまでひとつの「事例」として、言うなればサンプルとして、できるだけありのままの形で記憶に留めておこうと努めます。

P123

⑤、ここまでのまとめとして、

小説家を志す人のやるべきは、素早く結論を取り出すことではなく、マテリアルをできるだけありのままに受け入れ、蓄積することであると僕は考えます。

P124

⑥、⑤の注釈として、たくさんの記憶を情報処理(最小限のプロセス)することについて書いています。)

記憶に留めるのは、ある事実の(ある人物の、ある事象の)興味深いいくつかの細部です。
~そこにある個別の具体的なディテールをいくつか抜き出し、それを思い出しやすいかたちで頭に保管しておく。

P125

⑦、⑥が最小限のプロセスだという。
「記憶の自然淘汰によって、消えるべきものは消え、残るべきものは残る」という。

⑧、(そして⑦でできた)具体的細部の豊富なコレクションが小説を書く時に重宝する

⑨、ここまでのまとめとして、

脳内キャビネットに保管しておいた様々の未整理のディテールを、必要に応じて小説の中にそのまま組み入れていくと、そこにある物語が自分でも驚くくらいにナチュラルに、生き生きとしてきます。

P127
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⑩、そしてジェームス・ジョイスの言葉を引用して「イマジネーションは記憶」のことだといい。
イマジネーションとは「有効に組み合わされた脈絡のない記憶」であり、それ自体の直観を持ち予見性を持つようになる。そしてそれこそが正しい物語の動力となるべきものだという。

⑪、さらにP130では、“使いみちのなかったマテリアルを使ってエッセイを書く”ということ。
P131では、スピルバーグの映画E・Tを取り上げて、
“材料そのものの質はそれほど大事ではなくて~、日常的で素朴なマテリアルしかなくても、簡単で平易な言葉しか使わなくても、もしそこにマジックがあれば、~洗練された装置を作り上げることが出来る”という。
(*ここでの装置とはE・Tに出てきた通信装置のことです)

⑫、村上さんは“最初は書きたいという小説の実のある材料はなかった”と言います。
“書くべきマテリアルのないところから、立ち上げていく才能もなかった”という。

⑬、(ここからマテリアルに形容詞がつくことで、少し抽象的な文章になっていきます)
限られたマテリアルで物語を作らなければいけなかったとしても無限の可能性があるということ、軽量級のマテリアルにしても、その組み合わせ方のマジックを会得すれば、いくらでも物語を立ち上げていくことができる”という。

⑭、最後にまとめるような文章がありました。
“視点を変更すれば、”

発想を切り替えれば、マテリアルはあなたのまわりに、それこそいくらでも転がっていることがわかるはずです

P140

「健全な野心を失わないことが大事だ」という

⑮、回の最後にこの回「何を書くべきか」の結論を語っています。

もしあなたが小説を書きたいと志しているのなら、あたりを注意深く見回してみてください。

P143

これが村上さんが言いたかったことだといいます。
独特の言い回しで文章が語られていました。すべてを理解するのはむずかしそうです。

感想

マテリアルは誰にでも集めることは出来るかもしれないと思いました。
ただ材料のみでオリジナル作品をつくり出すことは難しい。
“限られたマテリアルであってもマジックによって物語を立ち上げることが出来る”といいきれるのは、村上さんだからでしょう。村上ワールドの極致だと思いました。

マテリアルに軽量・重量と質感を持たせたり、マテリアルと材料を微妙に使い分けている所も村上さんらしいところで興味深かった。

この記事の最初に、村上さんのテーマについて思っていたことを偉そうに書きましたが、
本の中には「テーマ」という言葉が出てきませんでした
(~_~;)。
恐らく村上さんのこだわりがあるのでしょう。
その理由も本の中に書かれているのかも。今回は分かりませんでした。

推測ですが、「テーマ」は様々のマテリアルの組み合わせによって表現するものなのかもしれません。
それには村上さんの言う「マジック」が必要です。(これが肝心なところで特別な技なのでしょう)
自分の中では、大きな謎として残りました。

この本はエッセイの様ですが、小説同様に文章に様々の意味がありました。
内容がわりと直球勝負なので驚きましたし、ユーモアもあり楽しく読めました。
興味のある方は是非読んでみてください。
*最後まで読んでいただきありがとうございました。

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