「パン屋を襲う」村上春樹著-感想【ネタバレ有り】想像力の不足が招く行動の危うさ

彼らは呪いを解くために行動を開始する。

海底火山は主人公が以前に沈めたものの象徴か。
過去にあるものは、それは水の底にあるので、もう冷たくなっているはずだったのだが、
よく見るとまだそこに残っている。

呪いを解くために二人は夜中の2時にパン屋を探しに行く。
車の後ろに散弾銃と黒いマスクをのせて

何とも凄まじい展開だが、妻からすると主人公が何気なく話を進めていくのが物足りない。
隠そうとしていることがある・罪の意識が薄いのか、何か生き方に危うさがある。
結婚して妻が気になっていた点だ。

夫の空腹からの告白は、奥さんの意識を別の場所に連れていく。

それが以前から気になっていたことと呪いをくっつけて、予期せぬ方向へ展開する。
読者がハラハラするのは、この二人の考え方の違いに危うさを感じるからなのではないか。
そして登場人物も危うさを感じている

夫が気になったのは、彼女がどうして散弾銃そしてスキーマスク持っていたかである。

ここで物語の主役は妻に切り替わっていることに気づく。
彼女の頭の中で考えていることに読者は集中しなければいけない。
夫がパン屋を襲ったということについての疑問だ。
これは対象も理由もおかしいのだが、
妻の呪いと言う言葉や連想によって、いつの間にか“呪い”に置き換わってしまう。

ここで一気に話が展開する。
このスピード感もこの小説の読みどころ。

TVなどで犯罪が起きた時に、マスコミは事件の動機・理由・どうして犯罪を起こしたのか、
人間の欲望について識者が動機について語る。
しかし実際には犯罪は現実に存在しているもの(生きている)で、
現代の風潮で、もっともらしく語られるのだが、時代により変化していて捉えどころなどない。
つまり型にはめられる犯罪などないのではないか。
そんなものに関係なく(あざ笑うように)犯罪は形を変えていく。

人間の欲望は果てしもないもの。
時にその犯罪を起こした理由さえも忘れ去ってしまい、その形を変えていく。
そして終いには“自分がしたことでさえ無かったもの”にしてしまう。
それが欲望の本質なのだというように。

この物語も色々な要素が関係しているのだが。
そのすべてが変わったり他のものに代替されていったりで、しまいには「理由」までもが姿を変えてしまう。
そして人間は都合よくそれを“呪い”のせいにしたりする。
しかしそれは決して呪いなどではなく、人間の欲が作り出した都合のいいものでしかない。

すべて人間は“都合”のいいように理由をつくりあげていく。

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