語り手の役割とは?「グレート・ギャッビー」村上春樹訳-考察2

*「グレート・ギャッビー」スコット・フィッツジェラルド著 
村上春樹 翻訳ライブラリー 中央公論社刊を読んだ感想になります。

・村上春樹さんは、小説「グレート・ギャッビー」の優れている点をこう言っています。
『すべての情景がきわめて繊細に鮮やかに描写され、すべての情念や感情がきわめて精微に、そして多義的に言語化されている文学作品』であると。

そして小説としての「目標であり、定点となり、小説世界における座標のひとつの軸となった」と。

しかしこの本は、読む人によって評価が分かれているそうです
そこで自分なりに、この小説が評価されている部分を探してみました。
下記の三つに絞りました。

小説の時代背景(1922年)と表現
語り手の役割について。
物語に影響与えた妻ゼルダとの関係。
この記事は上の②について書いています。

【注意】一部推測を含みます。

*この記事の関連記事を紹介します。
作者・舞台・登場人物・簡単なあらすじなど感想を書いた記事があります。
ひと夏の美しくも哀しい物語-「グレート・ギャッビー」フィッツジェラルド著-村上春樹訳-感想』です。
また考察としてこの記事の前に書いている「①小説の時代背景と表現」があります。
この二つの記事を読んで読んでからの方が、この記事「②語り手の役割について」をより理解しやすくなります。

「グレート・ギャッビー」村上春樹訳-考察2

②語り手の役割とは、二重の視点?。

この小説の最初に登場する「ニック」は、物語の冷静な『語り手』として出てきます。
しかも物語に登場しギャッビーに共感する主人公でもある。
この「二重の視点」は新しいものであり、これが小説の成功に寄与しているそうです。

『物語を語る』とは、どういうこと?

物語の背景を調べるのにアメリカの歴史について本を探していた時に、
歴史研究家の筆者が書いている本「列伝アメリカ史」に、
“語り手”について興味深い文書がありました。

大変興味深い内容でしたので、ご紹介します。
*「あとがき」の“歴史を本にすることの難しさ”に語る部分から引用しています。

・筆者は「歴史を語るときに付きまとう迷いは、その部分を語りどの部分を語らずに済ますかということだ」といい、そこに本質的な問題もある

それは歴史を語るという矛盾から。

歴史はその中に生きた無数の人間の生き様、努力や失敗の積み重ねの総合計だが、そのずべてを語りつくすことは不可能だ」「すなわち、歴史上のトピックスは選択的で部分的である事を免れない。」という。

なので歴史上のトピックスとは、
「私たちの記憶と似たようなところがあり、多様で限りのない経験から“一部分が”抽出されるもの」
それが
凡庸な物語で終わるのか・新鮮な叙述となるのは、ひとえに語り手にかかっている。
つまり歴史の語り手の見識あるいは事実選択の技が試される。」

・歴史は揺れ動く真実、しかし真実を伝えても人間の本質はあまり変わらない?。
歴史は固定して間違えのない真実と言うより揺れ動く真実だが、その揺らめきの中からかいま見える人間の姿がある。~ ところがその人間たちのほうは、悲しみや怒り、矛盾や野心を抱え込んで現代の私たちとあまり変わらない存在だ。」

興味あるテーマを使って繰り返し伝える必要がある。
だから時代が代わっても人は伝えることを手放せない。

【大事なことは「歴史から学ぶ事」、語り手はその手助けをしている】

歴史は「揺れ動く真実」であり、その時代の「テーマに絞って、その一部を限りある時間(ページ数)で語らざるを得ない。」
登場する人物についても一代記などは書けないので、「造詣やエピソードをしぼること」になる。

「限られているテーマ・限られている時間を書ききることでダイナミズムが生まれる」
・「人を造形豊かに、エピソードを描くことで、リアリティが生まれる。」

【仮説】語り手の役割とは、ダイナミズムとリアルからリズムをつくり出すこと。

揺れ動く時代の中で、テーマを絞りキャラクターを使い、変わらない真実が書けるか?
これは歴史だけでなく「小説を語る時」にもいえることなのではないでしょうか。

【語り手でもある・小説家の役割とは】

『小説家がその人の経験をもとに、その人の生きた時代をリズムよく語るから伝わる』

大切なのは読者が小説を楽しむ事。
小説家は言葉を使って、その手助け」をしている。

語りを楽しみ、共感できることで理解が深まる

この「グレート・ギャッビー」を読んで面白い・素晴らしいと言われる理由は
小説が「アメリカのダイナミックな歴史を背景として、人間のリアルを物語として、リズムよく語られている」からなのだと思いました。

◎そして物語の登場人物の中にも、読者を感情移入しやすくする「語り手」がいます。
「ニック・キャラウェイ」です。
(主人公と読者の間にいるキャラクター)
彼自身も「ギャッビー」と知り合う事で、物語の中で成長していきます。
そのことも、この作品の価値・評価をさらに高めている。

*最後までお読みいただきありがとうございました。
【注意】個人的な意見です。

【参考文献】
*「列伝アメリカ史」松尾弌之著 あとがきから一部を引用しました。「アメリカの歴史を知るための62章」富田虎男、鵜月裕典、佐藤円編著を参考にしました。
それぞれ大変素晴らしい文章で勉強になる本です。
アメリカの歴史・文学について知りたい方にお薦めします。