物語の時代背景を調べた「グレート・ギャッビー」村上春樹訳-考察1

*「グレート・ギャッビー」スコット・フィッツジェラルド著 
村上春樹 翻訳ライブラリー 中央公論社刊を読んだ感想になります。

【村上春樹さんは、小説「グレート・ギャッビー」の優れている点をこう言っています】
すべての情景がきわめて繊細に鮮やかに描写され、すべての情念や感情がきわめて精微に、そして多義的に言語化されている文学作品。

小説としての「目標であり、定点となり、小説世界における座標のひとつの軸となった」と。

*しかしこの本は、読む人によって評価が分かれているようです。*

そこで自分なりに、この小説が評価されている部分を探してみました。
下記の三つに絞りました。

小説の時代背景(1922年)と表現
語り手の役割について。
物語に影響与えた妻ゼルダとの関係。
この記事は上の①について書いています。

【注意】後半の記事は主に小説の表現にかかわるものです。
調べてまとめていますが一部は推測を含みます。

この記事の前に作者、舞台、登場人物、簡単なあらすじ、感想を書いた記事を書いています。
ひと夏の美しくも哀しい物語-「グレート・ギャッビー」フィッツジェラルド著-村上春樹訳-感想』です
この記事を読んでいただくと、この後半記事をより興味持って読んでいただけます。

*小説を読んでから、この記事をご覧になることをお勧めします。

「グレート・ギャッビー」村上春樹訳-考察1

①小説の時代背景(1922年ごろ)と表現

この時代のアメリカ社会の雰囲気を伝えるのが
「グレート・ギャッビー」だと言われている。
1900年代初頭は下記のような特徴をもっていた。

・経済活動が活発化。
電気機器製造など新たな産業が生まれた。株式市場・不動産への投資も盛んになった。
1921年の国民総所得は594億ドルだったが、1929年には872億ドルに達した。
月間個人所得もあがりました

・大量消費社会が始まる。
大衆消費文化(19世紀末から1920年代)の出現。
大量生産は大量消費をよんでいく。
ニューヨークに駅にはドラックストアや雑誌売り場もある。
国民の均質化もすすんだ。

*「グレート・ギャッビー」では頻繁に開かれるパーティ。
大量生産が可能になり、際限のない欲求がえがかれる。
*小説の中ではパーティに使用する食材がお店から配達され、パーティ用家具は「ケータリング業者」によって配達されてきます。
一方商品の普及は広告をのせる雑誌を生みます。
沢山の商品は差異化(差別化?)の要求を出現させました。

・巨大企業の伸長・ブランド化。
自動車メーカーフォードは1913年に新しい組み立てラインを導入。
*小説の中ではロールスロイスやステーションワゴン、クーペが登場する。

・便利な時代の到来、様々な制約からの解放。
鉄骨を組み合わせた丈夫な橋が出来て交通が便利になった。
機関車や自動車などが大衆化。
鉄道線路に並行して自動車線路も作られた。
*「グレート・ギャッビー」ではニューヨークに向かう自動車道路がでてくる。
道路は「灰が育つ奇怪な農場」にあり巨大な巨大な眼の看板がある。
自動車はフリーダム・マシーンと言われて、地理的・地理的な制約から人々を解放した。
都会と地域を人が頻繁に行き来することも可能に、付き合い方にも変化があった。

*「グレート・ギャッビー」ではトムがニューヨークに愛人を作る。

若者たちの意識の変化~時代感覚が鋭い「失われた世代」もうまれた。
親世代のビクトリア朝時代の道徳観に対する反発。
ピューリタニズムという堅苦しい倫理観・金銭をあがめる俗物的な風潮、画一化のなかの人間性の欠如を軽蔑した。
*「グレート・ギャッビー」の中では、飲酒におぼれ異性関係に自由な若者の姿も描かれる。

人々の間に「精神的な根無し草」の感覚がひろがる。
(この感覚は学校教育や戦争によるものだと言われている)
環境としてもアメリカが持っていた手つかずの自然の姿が日常生活から消えかかっていた。
人工の建築物や機械などが生活に入ってきて当たり前に。
電気洗濯機や電気掃除機の出現は便利だが、世界的に通用するものでアメリカらしさは感じられないものだった。
伝統的なアーリーアメリカンやコロニアル様式の住宅から、鉄筋コンクリートとガラスで構成されるモダニズム建築が増えていく。
*「グレート・ギャッビー」では、富裕層トムはコロニアル様式の屋敷にすみ、
成りあがったギャッビーの屋敷は庁舎を模倣して作られたものにすむ。
住居で両者を対比。
都市の風景も高層ビルがたちならび一変した。

・人生の楽しみ方が多様化した。
ラジオや電話が普及した。
19世紀末に開発された映画の技術は映画を娯楽の頂点へ。
1920年代の終わりには全米のすべての町にかならず映画館があったという。

*小説では上記の「期待感と興奮に満ちた世界」が物語の中に良く表現されています。
そして根底にはアメリカのダイナミックな力強さがある。
それが「グレート・ギャッビー」が世界的に評価されている理由の一つでもあるそうです。

感想

歴史表現を調べることで、物語の中の語り手「ニック・キャラウェイ」の住んでいたアメリカ世界の一部を覗き見ることが出来ました。
経済が拡大、便利な時代の幕開け、社会が変わっていく息吹がありました。
そして限りない欲望の始まった時代で、人間が違うチャンネルに足を踏み入れたであろう時代。
そういう点で『現代につながる物語』なのだと思いました。

この記事の続きとして「②語り手の役割について」「③物語に影響与えた妻ゼルダとの関係」を書いていく予定です。

*最後までお読みいただきありがとうございました。【注意】個人的な意見です。

【参考文献】
「アメリカの歴史を知るための62章」富田虎男、鵜月裕典、佐藤円編著を参考にしました。
アメリカの歴史について知りたい方にお薦めします。