「羊男のクリスマス」村上春樹著-感想-【ネタバレ有】ドーナツがある羊男世界は穏やかで温かい

*「羊男のクリスマス」村上春樹著 講談社文庫刊の感想になります。一部ネタバレがあります。
先に小説を読んでから、この記事を読むことをお勧めします。

この物語に悪人は出てこない。周辺にいて正直に生きている人やものです。
みんな他の人の役に立ちたいと考えているようです。
主人公の羊男は外見と反して普通の人間だと思います。そして色々と雑念にさいなまれています。
物語は羊男の気持ちと相反して冒険に突入し、様々な出会いがあります。
謎はとけませんでしたが結果はでました。
幸せは“求めることでなく動くことで寄ってくる”のかもしれないと思いました。

舞台

羊男の住む下宿と彼の働いているドーナツショップのある世界。
それと「羊男世界」。

登場人物

羊男
羊の衣装を着ている男で貧乏。下宿に住んでいる。昼間は近所のドーナツショップで働いている。

下宿の家主のおかみさん
奇妙ななりをしている羊男をよくは思っていない。人間の代表か?
羊男に色々文句を言うけれど、正直に言っているだけで追い出しはしない。
悪い人ではないのかも。

羊博士
羊男の悩みを聞いてあげる。シナモン・ドーナツが好き。
家は古いレンガ造りの家で植木や門柱等は羊のかたちに造られている。

ねじけ(兄:顔が左回りにねじけている)
穴の底にいる門番。背の高い男。顔がひどく長くてそれがねじりドーナツのようにくるくるとねじけている。

双子の女の子
208・209と番号をついたシャツを着ている二人の女の子。二人は何から何までそっくり。森の外には出れないという。

海ガラスの奥さん
くちばしと羽根を持っていて空を飛べる。岩のてっぺんに家がある。家の中はひどくちらかっている。

ねじけ(弟:顔が右回りにねじけている)
草原の真ん中。大きな木の上部に木のほらを利用した小さな小屋に住んでいる。

なんでもなし
名もないもの。すがたを見せなかったが口のまわりにドーナツをつけていた。(挿絵によると丸顔で小さな人)

聖羊上人(せいひつじじょうじん)
身長百四十センチくらいの小柄な老人。おおきな白いヒゲがある。

序盤のあらすじ

羊男(羊の衣装を着ている男)は下宿に住んでいる。
夏の終わりに羊男協会から「聖羊上人様をお慰めするための曲」をクリスマスまでに作ってほしいと言われる。
羊男は後数か月あるので余裕だと思っていたのだが下宿でつくれず、曲は出来ない。
羊博士に相談も持ちかけたが「呪われている」と言われるのだった‥。

感想

ドーナツのある羊男世界は穏やかだった。物語は楽しいし、佐々木マキさんのイラストも楽しい。

羊男は作曲の依頼を受ける。
数か月あるから大丈夫とたかをくくっていたのだが、なかなか取り掛かれない。
羊博士に相談したところ呪いにかかっていることが分かる。
そして呪いを解くために冒険に出る。
そこで出会ったのは様々な人達や変わった動物だった‥。
苦難が彼の前に立ちふさがるが、皆の協力で呪いを説くこと?が出来た。
最後クリスマスを迎えた羊男は羊ピアノをもらう。羊男はピアノで美しいメロディーをかなでることが出来た。
羊男の「羊男世界」での夢のような体験はハッピーエンドで終わる。
*羊男や登場人物のキャラクターが面白い。最後は少し辛いですがとても穏やかで幸せな気分になりました。

登場しているものや言葉について考えてみた。

・ドーナツの意味

ドーナツは美味しいので皆に愛されている。穴が開いていることで親しみもある。
なにより皆の胃袋を満足させて「生きること」に役立っている。
けれども愛されるほどに食べられてしまう。ねじけるときりがなく伸びていってしまう。
なので他の人には役立っても自己実現は出来ない。という矛盾を持って生まれてきている。

・羊男の意味

羊男は恐らく自分から羊男になりたかったわけではない。生まれた時からそういう待遇だった。
おそらく自分には羊男が一番妥当だろうと思ったのだ。したがって誰もうらやむことはない。恐らく小市民なのだと思う。しかし自分らしさを消そうと生きているのに逆に目立ってしまうという矛盾もある。

・羊男世界のクリスマス

クリスマスは「羊男世界」を聖羊上人がお祝いするイベント。
羊男は静かに暮らしたかったのだけれども名誉ある作曲家に選ばれたので何とか役立とうとする。
羊男をその世界を理解する人は多くない。と羊男(彼ら)は思っている。
しかし実際は、羊男世界を祝ってあげようという仲間の気持ちが企画した企てだった。

呪いの意味
「呪い」は怖いイメージがあるが、この物語の呪いは“人間の性のようなもの”か。
恐らくは誰もその呪いからは逃れられない。
でもみんなで協力すればそれを軽くすることが出来る。
この小説の中の「呪い」とは、自分が自分にかけている思い込みや縛り(おもし)のようなものなのかもしれない。

まとめ:ドーナツが示すもの・ドーナツが語ること

まずこの小説を読んで最初に思ったのはドーナツがポイントであるということです。
それは穴あきのドーナツに対して穴のない“ねじりドーナツ”が登場することでわかります。
穴のないドーナツを『ねじり』と呼ぶことで普通のドーナツとの違いを明確にし役割を与えています。
また羊男はドーナツを持っていて食べてもらうことで色々助かっている。
(彼が効果を気づいているかどうかは別にして)

物語の中にドーナツが登場するという事は、ドーナツが役割を持っているという事です。

【ドーナツはアドバイスのお礼:お金の代わり】
お礼として食べてもらう、または食べられてしまう。皆を幸せに出来るアイテム。
ドーナツはお金と違って人を動かす道具ではない。

【ドーナツは食料で元気の源:必要なもの
ドーナツは気軽にみんなが食べられる。美味しくて会話が弾む。

【ドーナツは欠けているが役立つもの:親しみがある】
穴の開いているから手を使って食べやすい。携帯してシェアー・分けやすい。

ドーナツは何か欠けているものを象徴している。それは羊男自身かもしれない。
普通の人間は完璧でないのはあたりまえ、穴があっても生きていける。
別に完璧でなくても他の人や動物の助けを借りればなんとか生きていけるのだ。
それをこの物語は語っていると思う。物語にほんとの悪い人はでてこない。

最初にこの物語を読んだときに思ったのは。
ドーナツが美味しそうなので食べたいなあという欲求でした。物語の進行に関係なく皆が自由に気軽に食べている。
どうやらシェアーしているらしい。ドーナツは雰囲気を柔らかくして『悩み』を忘れさせてくれます。

最初から登場人物が美味しく楽しくドーナツを食べる、それが物語を動かす。
ドーナツを食べることは『生きるために大切である』といっている。
幸せになりたいという欲求でなくて、食べることで元気を出して行動してみること。それが大事。
みんなと悩みを相談して共有することで『呪い』が解消される。最後に幸せが寄ってくるのです。
物語の最後に皆が集まってくれる。羊男の中に美しいメロディーが浮かんでくる。
それはあくまで「結果」で、それまでの過程が大切なんですね。と思います。

*この物語は問題の解決策を書いている訳ではないのだと思いました。

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*最後までお読みいただきありがとうございました。