*「恋しくて」村上春樹訳に掲載されている短編「恋と水素」ジム・シェパード著を読んだ感想になります。
【注意】一部ネタバレがあります。小説を読んでからこの記事を読むことをお勧めします。

【副題】甘くて苦い粒選りの10編、村上春樹が選んで訳した世界のラブストーリー+書き下ろし短編小説。
村上春樹さんが選んだ短編小説、どの話にも色々な“恋”がありました。
「恋と水素」ジム・シェパード著
【ジム・シェパード(1956年~】
コネティカット州生まれ、ブラウン大学に学ぶ。作家でウィリアム大学の創作家教授。数々の長編と短編集を発表している。著書に「14歳のX計画」「わかっていただけますかねえ」「ドック・ストーリーズ(下)」「you think that’s bad」などがある。*短編作品はハーパース、エクスクァイアなどに掲載された。
時代
1937年5月半ばの早朝
舞台
飛行船「ヒンデンブルグ」号、太西洋の海原の上を飛んでいる。
「ヒンデンブルク」は全長804フィート(241m)、上部に気球
羽布を張った外殻と主構造としている。25の居室を持つ。
*この物語は、ヒンデンブルクの爆発事故という悲劇をモチーフとして作られているようです。この事故について調べました。
【ヒンデンブルク爆発事故とは】
1937年5月6日に、アメリカ合衆国ニュージャージー州マンチェスター、タウンシップにあるレイクハースト海軍飛行場で発生した。
ドイツの硬式飛行船「ヒンデンブルク号」の爆発・炎上事故を指す。
この事故で、乗員、乗客13名と地上作業員1名、 合計36名が死亡し、多くの乗客が重傷を負った。生存者数62名。
爆発の原因は、静電気の放電による発火。
大型硬式飛行船の安全性に疑問が持たれ、 飛行船時代が幕を閉じる契機になった大事故。
*ヒンデンブルクの主船体の下、Bデッキにはギャレー、士官食堂、部員食堂、シャワー室、トイレット、バー、喫煙室があった。階段を上がったAデッキには中心線側に二つの乗客用キャビンが二列に作られていた。その外は広いプロムナード(遊歩道)があり展望窓から外が見れた。
登場人物(主人公)
・マイネット
ヒンデンブルク号の機械工のゲイの男性。
グニュッスより年上。年下のグニュッスを愛する。
出身はレーゲンスブルク(ドイツ・バイエルン州)。
ナチ党員。
・グニュッス
ヒンデンブルク号の機械工のゲイの男性。
年上のマイネルトを愛する。
出身はマイネットと同じレーゲンスブルグ。
均整のとれた体つきの男。ナチ党員。
首の付け根に、8の字のかたちのロープの入れ墨がある。
*2人はフリードリッヒ・シャーフェン(ドイツ)に住む。
シャーフェンはこの小説のツェッペリン飛行船会社の所在地である。
シャーフェンはコンスタンス湖の北側にあり、湖を隔てた南側にはスイスの高さ8000フィート(2400m)のセンティス山が見える。
*コンスタンス湖はドイツ・スイス・オーストラリアの国境に位置している。
最初の硬式飛行船を作った“ツェッペリン伯爵”は、1899年に湖の付近に工場を作り、穏やかな湖には水上格納庫があった。
簡単なあらすじ
乗員・乗客を乗せヒンデンブルク号は飛んでいる。
機械工マイネットとグニュッスの二人はゲイの関係。
飛行船『ヒンデンブルク』はカーブを描きながら16階のビルの高さ 2000フィート(600m)の空上を飛行中。眼下に雲がある。時空85マイル(風速38m)の風が吹く。
ドイツの南、下にはスイスやオーストリアの山々がら湖面に逆さに映る。
素晴らしい景色が見える。
所有しているのはツェッペリン飛行船会社。
ドイツ国のフランクフルトからリオまで3日半。
ブラジルのフランクフルトからニューヨークまで2日。
彼ら機械工マイネットとグニュッスの仕事は“気球の内部や外部”中心に、様々な場所。
・右舷一号エンジン・ゴンドラ
・船外はプロペラ後流が吹く
・丸天井つきの容器の中で、エンジンの作業推進プロペラの調整
・エンジンは1100馬力のディーゼル(高さは4フィート、プロペラは直径20フィート(6m)
ガス袋は損傷がつきもので、アクロバットを要求する。
危険な仕事で刺激が強いが、実直清廉に行う。
二人は同じレーゲンスブルグの出身、豊かな家ではなかった今は機械工という立派な職について、充足感があった。
マイネルトとグニュッスはお互いに愛し合う仲だった。
船内では上流階級のお客様とも交錯する。心が躍る、世界が広がる。
(マイネルトは、グニュッスのマイネルトに対しての細部への拘泥ぷりを愛する。グニュッスは、マイネルトの気取りの素振りやまわりの非難などを受け流す様子を愛している。一方いかがわしくも狡猾な魅力に言葉を失う。
そのギャップも好きなのだ。)
天にも昇るような二人の初めての旅
飛行船は地上とは違う、静かに別の時を刻む。
軌道を描く惑星のように…、地上の山々・湖を見渡して…。
高さがそうさせたのか、次第に狂い始めていた、散漫になっていった‥。
感想
飛行船の中で二人(マイネルトとグニュッス)の密会がある。
二人はリスクあれど楽しんでいる。
飛行船の中でその気持ちはより刺激的に?
その浮遊感が狂わせた、何かが手からすべり落ちた。
二人は同棲愛の関係を隠していた。
空の上では一対の茫然とする物語と化していた。
その関係は、はたして運命だったのか?
いろんな人の人生・愛が交錯した。
二人の“恋”も飛行船の事故で一瞬にして壊れた。
悲劇の中に“一瞬の閃き”を見る。
それは異形の恋のようだと思いました。
*物語の舞台は5月半ばであり事故が起こったあと。
あとがきによると、この登場人物はフィクションだろうとのことです。
*この小説は吉本ばななさんが高く評価したとのこと。それにしても変な題名です。同名のタイトルの短編集が出ているそうです。
最後までお読みいただきありがとうございました。