「テレサ」デヴィッド・クレーンズ著-「薄暗い運命」リュドミラ・ペトルシェフスカヤ著-感想-「恋しくて」より

*『恋しくて』村上春樹訳の感想です。
【注意】一部ネタバレあります。記事を読む前に本編を読むことをお勧めします。

「恋しくて」の副題は、“甘くて苦い粒選りの10編、村上春樹が選んで訳した世界のラブストーリー+書き下ろし短編小説”とあります。

恋しくて-村上春樹著-表紙
恋しくて-村上春樹著-表紙

*今回は、収録作品の中で特に短い下記の二本をご紹介します。
「テレサ」デヴィッド・クレーンズ著と「薄暗い運命」リュドミラ・ペトルシェフスカヤ著です。

「テレサ」デヴィッド・クレーンズ著

【デヴィッド・クレーンズ】

イェール大学で演劇を学び、1967年よりユタ州在住。
40年にわたり、州内で最も影響力のある作家として活躍する一方、米国とヨーロッパ各地で作家の育成にも貢献してきた。
*「恋しくて」の小説家紹介より一部を引用しました。

主な登場人物

・アンジェロ
14歳(日本でいう中学2年)、身長が190m、体重が127kgある。
イタリア系で兄がいる。大食い。

・テレサ
14歳の女学生。アンジェロの同級生。
メキシコ系で髪はとても黒く、とても艶かで長い。

簡単なあらすじ

アンジェロは、歴史の授業中ずっとテレサを見つめていた。

テレサは友達がいないように見える。

彼女の髪を手の中に持つことができたら、どんな気持ちがするんだろうと思う。でもそんなことを考えるのは変だと思うし、恥ずかしい。

彼は大きくて自分が二人だと考えてしまう。
どこかに隠れてしまいたい、とんまな方を捨て去りたいと思っている。

彼女を見ていると、自分がほんのちょっとしたことで簡単に彼女を傷つけてしまったりしそうに見える。
でもそれと同時に、彼女は強そうに見える。

11月の初め授業の後、アンジェロはテレサのあとをついていく。距離をあけて彼女を観察する。
家へ帰るテレサの前に16歳くらいの2人の男が、テレサの行方をさえぎるように立ちはだかる。

アンジェロは近くにあったツーバイ・フォーの材木を持って、2人をおいはらうことに成功した。

テレサのその時の挙動から彼女の中に別の人間を見てしまう。
予想しないことだった。 アンジェロはそういう彼女の姿にがっかりした。

ひきつづきアンジェロはテレサのあとをついていく。
彼は大きい自分の姿がすぐに隠せるように‥。

感想

(思春期の男の子が、同級生の女の子への興味をかいている?)

男の子は、体の成長に頭がおいついていないようだ。
女の子は体の成長に頭の成長が追い付いてきている。
女の子は男の子に比べて“心の成長が早い”からかもしれない。

アンジェロは自分の活動エリアを出ることで、自分の大きな身体のいいところを教えてもらったり、又大きいサイズによって不利益(困ったこと) をこうむったりするという事実を経験する。

ちょっとした女の子への興味(恋?)から、
自分の知らない場所へ出ていくことになる。

それらはアンジェロにとって冒険だった。

アンジェロは、テレサについて行き彼女のくらしを垣間みる。
彼女への興味と現実、自分の家と彼女の家との様子に“違い”のあることを知る。

通学路からよりみちした経験から何かが始まる。自分をひろげるきっかけになる。少し後になってわかることになる。

14歳の男の子の遅れている頭の動きよりも、少し早い身体の動きがよく描かれていると思いました。

※アンジェロは中学生、世界が広がっていく時期。
“恋らしき感情”に気がついていない。男の子としての自意識は持っている。

手探りのなか自分なりにやってみる?
体が先なのは男の子の特徴、女の子との違いが透けているように思いました。

「薄暗い運命」

【リュドミラ・ペトルシェフスカヤ(1938-)】

1938年モスクワ生まれ。モスクワ大学卒業後、新聞社や出版社などに勤務し、詩作や戯作、散文も手がける。絵画や帽子に才能もある。

冒頭のあらすじ

三十代の未婚の女性が「恋人」をアパートに呼ぶ。
恋人は四十二歳の男性で、女性にとって孤独から抜け出すための手立てで、“宝”だったが、男性は違っていた‥。

感想

“こういうことが起こった。” で始まる物語、三ページに満たない。
この本に収められている短編の中で一番短い。
ドラマはギュッと詰められ、登場人物の感情は短く端的にまとめている。

主人公の女性の気持ちや生き方ははっきりしている。

小説が短いが故に、その裏にどのような会話、沈黙が隠れているのか想像してしまう。

登場人物は“主人公の未婚女性”と“その母親”。
糖尿病を患う“恋人である男性”、“彼の妻”と“十四歳の娘”と“母”がいる。
主人公女性の“職場の同僚女性”と“彼女の別れた夫”。
八人出てくるのだが、この小説では細かく描かれていない。淡々と書き分けられている。

主人公の三十代未婚の女性は過去にいろいろあってのこの現実。
理由があって、彼との“逢い引き”は人生の後付けに?

もちろん「恋人」である四十二歳の子供みたいな既婚男性にも。
他の登場人物にも“訳があった”はず。

皆生きている限り、年を重ねていくと「訳あり」にならざるをえないということか?。

ただ「恋」が訳ありというのはどうかなとは思う。

人間のいやらしい部分が見えるけど、短い文章ではあるけれど主人公の生活を想像する。悲しいなあと思う半面、どうにかできないかとも思う。

誰もが影を持って生きている、これを「薄暗い運命」というのもかわいそう。

個人的には、恋人とは“訳なし”で付き合いたいと思いました。
(理想かもしれませんが‥)

村上春樹さんが選んだ短編小説、村上さん自身がセレクトしているのでそれぞれ様々な味わいがあります。興味のある方は是非読んでみてください。

*最後までお読みいただきありがとうございました。