*『恋しくて』村上春樹さんが選んで翻訳した10本の短編集。
今回は「愛し合う二人に代わって」マイリー・メロイ著です。
今まで読んだ5作品の中で一番感動しました。
【注意】一部ネタバレあります。小説を読んでからこの記事を読むことをお勧めします。
*感想の前に、この小説に頻繁に出てくる「代理人結婚」について調べました。大事な役割を持っています。
【代理人結婚制度とは?】
【注】WEBのAI検索した結果をまとめています。
結婚当事者のうち1人、あるいは両方が出席できない場合でも、代理人を立てて法的に有効な結婚式(挙式)を行うことができる制度。
特に地理的に離れている軍関係者(兵士)の結婚手続きが多い。兵士の場合は配備先や遠隔地からの出席が難しいため、この制度がよく利用されます。
*モンタナ州は、州の法律で代理人結婚(proxy marriage)を完全に認めている全米でも数少ない州の一つです。
「愛し合う二人に代わって」マイリー・メロイ著
【マイリー・メロイ(Maile Meloy)】
モンタナ州で育つ。『ニューヨーカー」「バリス・レビュー」などに作品を発表。2007年には文芸誌「グランダ」が選ぶ若手アメリカ人作家21傑に選ばれた。※恋しくての作家紹介より
舞台
モンタナ州のとある高校3年生の男子・女子の物語。
*モンタナ州はアメリカ合衆国の北部に位置する・山岳地帯。
主な登場人物
・ウィリアム
高校生3年生。背が高く痩せていて内気で不格好。積極的に発言する方ではない。自信が持てない男の子。
・ブライディー・テイラー
ウィリアムの同級生、女友達。金髪の巻き毛、鼻は長くまっすぐで瞳は黒い。 声は明るいメゾ、ソプラノ、美人ではない。
(父親は弁護士、母親は9歳の時に家を出ていった。)
・ブライディー・テイラー氏
ブライディーの父親、弁護士。
大男で熊のような見かけだが、親切な人。
簡単なあらすじ(中盤まで)
ウィリアムはピアノが弾けたのでミュージカルに参加。ピアニストか物理学者になりたいと思っている。
ブライディーは女優を目指す女の子。高校でミュージカルをやる。自信家で自惚れも強かった。
二人は高校生時代、ミュージカルで一緒。
ウィリアムはブライディーに恋していた。
2人が高校3年生になった年の9月(20年)に、アメリカ合衆国の世界貿易センターとペンタゴンが、テロリストに攻撃されて崩壊した。
11月にはアメリカの部隊がアフガニスタンに送られた。
ブライディーの父で弁護士のテイラーは、そんな兵士たちのために「代理人結婚式」を始めた。
テイラーは娘のブライディーとウィリアムに“代理人結婚”を手伝う仕事をしないかと頼んだ。
ブライディーとウィリアムは、出兵した海兵と国内にいるフィアンセとの結婚について、裁判所で集まり代理人結婚式を挙げる事に同意し行った。
ブライディーはシカゴの演劇学校へ入学許可が出ていた。
ウィリアムはピアノを勉強する為にオーバリン大学へ進んだ。
ブライディーはシカゴに行き、高校卒業後2人はわかれわかれに。
しばらくして会った彼女はげっそり痩せていた。
イラク戦争が始まり、代理人結婚式を挙げるカップルも増えた。
二人は裁判所で再会する。
ウィリアムは大学で彼女もできたが、別れてしまう。
二人は卒業を機に進む道を決める時期になっていた。
ウィリアムの気持ちは変わっていなかった。彼女が成功するのを祈るが、気持ちは伝えない。
ブライディーとは、1年間位音信不通になる。
母の連絡でウィリアムはブライディーが結婚した事を知る。
ウィリアムはショックを受ける。
後悔した。代理とはいえ何度も結婚式を挙げていたのに‥。
なんとか仕事を再開する。クリスマスは実家に帰らず。
2月に、母からブライディーが離婚したこと、故郷に戻ってくると伝えられた。彼の心は混乱する。
6月にウィリアムは帰郷する。
ブライディーから電話があって心がときめく。
電話の内容はウィリアムにまた代理人結婚式をあげる気があるかどうかだった‥。
感想
代理人結婚式を通じてウィリアムは恋するブライディーと話をする関係に。
高校卒業で環境の変化がある、若い時は普通のこと。
彼らが他の子と違うのは代理人結婚をしていること。
二人は、たびたび代理人結婚を引き受けることになる。
ウィリアムとブライディーは、自分たちが代理人結婚を挙げたカップルの現実を知る。実際の二人の間には進展はない。
ウィリアムは代理人結婚式でブライディーと再会する、来るべきではなかったと思ったり、一緒に代理結婚人として出ることがつらかったり、代理人結婚式は儀式でありとるに足らない、と思ったりした。
最終的にはウィリアムは、思い出させてほしくなかった事というまでになってしまう。
*二人の思い出にはいつも代理人結婚があったのに、それを過去として葬ろうとしていた。(ウィリアムはブライディーの心を確かめてこなかった自分を責めた?)
ウィリアムは早くこの儀式を終わらせようと思う。
しかし運命のいたずらなのか?
今回代理人結婚式を依頼したカップルは、ビデオ・カンファレンス形式・ライブでやってくれという。
ウィリアムは二人の本当の関係が、自分の今の気持ちが画面に出てしまうのをおそれたが、開き直った。自分の気持ちをブライディーにぶつけた。
ブライディーの反応はウィリアムの思っていたのとは違っていた。
彼女の両目は喜びに輝いていた。
その機会をくれたのは、代理人結婚を頼んだカップルだった。
代理人結婚が二人に“等量の愛情”を運んできた。
ブライディーはウィリアムの気持ちを知っていた。彼女は待っていた?
借り物のような関係は、“愛”に変わっていた。
ブライディーは心の中をなかなか見せない女の子。
(ブライディーはウィリアムをなんとも思っていないのではなかった?)
今まで代理人結婚式の時にウィリアムはブライディーの心を気づかえなかったと反省するが、ブライディーの心はそこではなかった。
(ブライディーは小さいときに母が家を出て家庭が壊れた経験もしていて、恋から目を背けていたのかもしれない)
最後の最後、2人は代理でなくて本当の『二人の結婚式』をしているように感じました。*借り物でない2人の姿がそこにはありました。
代理人結婚という(見知らぬ2人をつなぐ)仕事が意味のないものと思っていたのに、最後にはウィリアムとブライディーの二人をつなぐ架け橋となる。
見事なエンドに感動、まるで映画のようでした。
「代理人結婚」が二人の生き方に与えたこと
・ウィリアムは「代理人結婚」を通じ他のカップルを観ることで、自分の生き方を振り返るようになった。*自分の足りないところも分かってきた。
・ブライディーは「代理人結婚」は父親の依頼でしていること。自分が一度結婚し離婚したことで自分を知る。
*この経験でウィリアムの支え(彼の良さ)に気がついた。
・「代理人結婚」はブライディーからウィリアムを誘った仕事。
*二人に会う理由を与えた。
時間はかかったけれど遠回りでなかった。2人には幸せになって欲しいと思いました。
小説としてはキャラクターの性格を生かした物語。とても自然です。
物語をすすめる代理人結婚の使い方は素晴らしいと思いました。
*「愛し合う二人に代わって」には、感動しました。
強くおすすめしたい一編になりました。
この「恋しくて」の副題は、“甘くて苦い粒選りの10編、村上春樹が選んで訳した世界のラブストーリー+書き下ろし短編小説”。世界の短編小説は、苦いものから甘いものまで、色々な恋の形がありました。
*最後までお読みいただきありがとうございました。