「バースデイ・ガール」村上春樹著-感想【ネタバレ有】人間は何を望んだところで自分以外にはなれない

オーナーは厳しい人だが大人だ、温かい眼も持つ。【年取った男性側に立って推測】

オーナーは店が忙しかろうが毎日20時に食事を持ってこさせる。
マネージャーには毎日の売上経過を報告させているのではないかと推測した。
オーナーと従業員との間には明確な立場の違いを意識させる。

今回マネージャーの急な不調で“代打として”若い女の子が料理を届けに来る。あまりいい気はしない。
しかも彼女は料理を奥まで運びましょうかという。
これもオーナーにとっては余計なことだ。頼んでもいないことで。
「あなたが望むのならば‥」といい、決して要求しているものでないこと、嬉しいことでないことを示している。
その先に彼女の口から出てきたのが彼女の誕生日の情報だ。オーナーは恐らく聞きたくもなかったことだろう。
そこでオーナーの怒りが質問に代わった。悪戯半分に。相手の本心を引き出してやろうと‥

「かなえよう。かたちもなく値段もないもので‥」この“意地悪な質問”に対しての答えはどう答えても上手くない。願いと言われたら普通は直接的(無難)なものの言い方しかできない。つまり欲しいもの(品物・お金)をいうことで、それが直接的で話が早く簡単だからだ。しかし今回はそれを禁止しているので、それ以外になる。
つまり主人公の女の子は、心の中を吐露しないといけない。
もし本音で言うのを嫌うと中途半端な物言いになってしまう。
若い彼女はどう答えてもうまくないのだ。

しかもかたち・値段のない願いとは、今は実現できないことである。
それをかなえたか・かなわなかったかなんて、歳を取らないと分からない。
オーナーにとっては、今は形が無くてかなえられないこと(望み)なのでどうでも言える。
つまり話はどうころんでも、オーナーにとっては痛くもかゆくもない。(もし彼に大きな力があって実現可能だとしても)
しかし女性の方からすると、願いを言ってしまうというのは自分の心にあることを無意識に自分と契約する・約束してしまうという事であり、人生の未来にある旗を立てたことになる。
冗談半分に他人に行ったこととしてもその言葉はブーメランとなって後々に自分に戻ってくるのだ。
その大きさは色々だが。

いい話で終わらないのは彼女の言った言葉が原因?

彼女はオーナーに何を「望み」として言ったのだろうか。
物語の終盤に彼女はある男性(彼)と話をしている。(⑦の続きです)

⑧オーナーにあってから10年以上の時間が経って、彼女は「何を望んでも自分以外にはなれない」と言う。
推測】これは昔オーナーに“自分以外の何かを望んだこと”に対しての“彼女の現在位置”を示しているのだろう。
つまり望みは実現不可能なことだったのかもしれない。
今現在もかなえられていない。

【仮に】若い彼女が“自分以外のものになろうと望んでしまった”のであれば、彼女は“他の人に生まれ変わるしかなかった”。
20歳の誕生日の時に自分に対して望むことではないし、誕生日に自分の親に感謝するのとは真逆の行動だった。
無意識であれとんでもないことを口に出したことになる。
(それについて今気が付いた?)

本音であっても無意識の自分に対して 裏切る行為・嘘 以外の何物でもない。

そしてそもそも、あなたの願いを教えてと言われているのに“自分と違う人(自分以外)になりたい”と答えるのは、オーナーの質問の答えにはなっていない。つまり自分の力の領域にない望みを言う事は、間接的に違う人の望みをいうことになる。(違う人になった後でなけれが、その違う人の望みは分からないから)

(言いかえると)自分の望みを言っているのではなくて、“自分以外の人になりたい“というのが望みになっている違和感がある。

*小説の終盤に登場する“聞き役の男性”は何者?
気になって仕方ない。