「バースデイ・ガール」村上春樹著-感想【ネタバレ有】人間は何を望んだところで自分以外にはなれない

彼女の願いの内容からアプローチ。

彼女が願ったことはどういうことだったのでしょうか』
小説によるとそれは若い女性にしては意外なものだったとある。
パートで働いていて社会に出たばかりの若い彼女の気持ちを考えると、突然のことで深く考えないで素直に言ったのかなとも思います。
それでも人間は肝心なことは忘れるのに、一度しか会ったことがない人と話した“何気ない言葉”を記憶しているものです。記憶の奥深くにしまわれて、いつまでも頭に残ってしまう。
何かが自分の記憶装置に紐つけているのでしょうね。

仮説を立ててみた【若い女性側から推測】

あなたは20歳になった時に「立派な大人になりたい」と思いませんでしたか?
親に対しては言わなくても、誰かに対して軽い気持ちで「そのような願い」をいったり思ったことはあるのではないでしょうか。しかしそんな願いの結果を30代に振り返ることはなかったはずです。そんな余裕はないからです。
でももし30代に振り返れる人いるとしたら、その人は時間のある人でしょう。

彼女が過去の願いを思いだすきっかけとなったのは、
『彼女が今も同じことをしていて(それは自分や他人に嘘をつくこと)、それが過去の願いとつながっている』からではないかと思いました。

推測すると、彼女が過去を振り返って中年男性に話しているのは、彼女が未だに望みを表現できないでいる、“自分に嘘をつき続けているということ、
それから逃れられないことについて悩んでいる。

彼女は中年男性と、20歳の時に言った誓い(望み)を”振り返っているのだろう。
そう考えると話を聞いている「中年男性の彼」は、彼女にとっての相談相手であり・浮気相手?なのではないかという疑いが出てきた。(バーで話をしているのも納得できる)
彼とは相談して親しくなった関係であり、彼に悩みを解決してほしいと思っているわけではない。

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【彼女には変わらない癖がある】

物語の終わり近くに彼女は彼に「人間というのは、何を望んだところで~自分以外にはなれないものなのね」と言う。

ここでいう自分とは「彼女が嘘をつく癖があること」を指している。

最初の嘘は20歳の時にオーナーに対しての答えた願いの内容であり、
・最近の嘘は、中年男性の彼に会うために“夫に言った嘘(理由)”である。
(自分を隠し夫に嘘をついている?)


つまり中年になった彼女は、中年男性に相談・流れで浮気をする、その時に20歳の願いを思いだし、自分は変わっていないと思った。
自分以外にはなれないと言ったのは、『自分の嘘をつく性格は変えられない』自嘲的に言ったのかなと思った。

おそらく昔オーナーに言った願いは、彼女にとっては心にもないことだった。
そして結果的に「自分に嘘をつくこと」になってしまった。

彼女も世間知らずだった。20歳の誕生日に「望みを言う」なんて思ってもいないのに応えた‥。

・中年になった今は、自分に対しては正直に生きている。しかし「他の人には嘘をついている」。
彼女は大人になったともいえる。(生き方も変化した?)

*若い時の“願い”と、中年になった“願い”は、その用途や意味が違う。

望みをかなえる話・続いている話として物語をとらえたかったのですが、
“若い日の不思議な話ではない”ように思う。

もしあなたが彼女と同じシチュエーションで、お金持ちであるオーナーに彼女に言ったのと同じことを言われた時、あなたはどう答えますか?

まだ出会って間がない人・お金持ちである人に、嘘をつかないと断言できるでしょうか?

そして正直で繊細な人であれば、言ったことに対して後々悩むかもしれません。
中年になって人生に迷ったときに、カウンセラーに相談するかもしれません。

*最後にここまでの推測をまとめています。