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翼を広げ飛ぶカモメ

田山花袋「蒲団」感想-青空文庫の音声読み上げで読んだ


以前記事に書きました田山花袋著『蒲団』を青空文庫で読んでみました。
パソコンで「青空文庫」のホームページにいくとリーダーがあるので、検索バーに題名をいれるだけで、すぐに読むことが出来ました。無料で利用出来るので、とても便利です。




*本を開けてカーソルをページ左上の空白部分に持っていきクリックすると左サイドにメニューが出てきます。そこから「音声読み上げ」を選択すると女性の声で文章の読み上げが始まりました。
最近パソコンで目を酷使していたのでこの機能を使ってみました。青空文庫を使用したことのない方は一度試してみてはいかがでしょうか。
さて今回の小説をご紹介します。







『蒲団』




明治40年発表の作品
【時】明治時代、9月中旬

【舞台】東京小石川

【おもな登場人物】

竹中時雄:36歳の小説家、ペンネームは竹中古城。東京矢来町に住む。妻と子供3人。副業で久堅町の工場で地理書の編集手伝いをしている。
:時雄の細君、夫からは旧式の女と言われている。丸髷で泥鴨のような歩き振、温厚で貞節。
横山芳子:小説家希望で時雄に弟子している。出身は備中国新見町、神戸女学院を卒業。19歳で上京して、時雄の妻の姉の麹町宅に居候している。新式の美人、身装が派手、ハイカラな庇髪くしリボン、英語が得意。
横山兵蔵:芳子の父。豪家で厳格なる基督教信者。ひげ深く頑固だが優しい、村の慈善事業や名誉職をしている。
田中秀夫:芳子の男友達で知り合ったときは21歳、基督神戸教会の秀才、同志社の学生だったが、東京に出てくる。京都訛りで老成な言葉を使う。白縞の袴に紺かすりの羽織。
妻の姉:軍人の未亡人で麹町にすむ、恩給と裁縫で暮らしている。




【あらすじ~導入】
東京に住む中年の時雄は売れない小説家である。全力が出せないまま煩悶している。家庭生活も単調で飽き始めている。できるならば新しい恋を得たいと思っている。




そんなとき神戸の女学院生19歳の横山芳子から門下生にしてくれとの手紙が届く。東京へ出て文学を学んでみたいという熱意に負けて弟子になることを許す。翌年2月父母の許しを得て芳子は上京してくる。
少なくとも時雄の孤独な生活は変わった。




芳子は妻の姉の麹町宅に居候することになり、それから1年半が過ぎたころの話、時雄と芳子の関係は子弟の間柄というには親密なところもあった。




芳子が4月末に帰国して9月に上京した時に事件は起こった。芳子は帰国したときに田中という恋人ができて、京都の嵯峨でその恋人と遊んでいたらしいのだ。時雄の心は色々な感情が湧き上がる。
そして芳子の告白の手紙をきっかけに、時雄の心にはただならぬ炎が立ち上がり、悩みは次第にふかくなっていった。








【感想】
登場人物が面白い。
一人目は、作者でこの一部始終を告白している男、竹中時雄だ。
明治時代の30代半ばの小説家の生活ぶりと、結婚して子供三人をもうけて幸せであるように見えて何か責任と使命感に疲れた男の悲哀的なものも見え隠れする。弟子が芳子という美しい女性であったことで心に大きな変化があったのは間違えない。この時の作者田山花袋がまだ自分の小説に確固たる方向性が見えていないときでもあり、複雑なその胸の内も文章に隠していると思った。




二人目は、時雄の弟子である横山芳子である。
女性の活躍が次第に活発になってくる時代でファッションなど興味深い。東京に小説家になる夢をいだいて出てくる彼女が、次第に都会慣れしていく様子や、初々しさが次第に自己主張し始めて、大人の形に変化していくところ、少女から女性に変わっていき恋をしていく様子など良く描けていると思いました。




三人目は、当時の古い女性として描かれている時雄の妻である。
妻でありながら夫時雄の文章にかかると旧式の女性として描かれていて少しかわいそうな感じもする。しかし彼女なりに家庭人として家族を守るための知恵も持っていてやはり明治の女性の典型的な姿がでている。女性の献身的な姿は戦後の経済成長の時まで続いていったのだから、日本人女性の気質として誇れるものだと思う。

他にも時代の動いていくさまが、人々の生活、風俗、町の様子、鉄道や道路などのインフラが描かれている。




物語としては最初から中盤までの芳子の登場から時雄の感情の変化と、妻など周りの様子、芳子が東京での出会いから彼女が変わっていって、彼氏を作り離れていく様子までの細かい描写は興味をつないだ。




饒舌なその筆圧は読者の近くまで届く。私小説の良さか作者の気持ちがダイレクトに伝わってくる、そこに無駄な脚色など必要がないとでも言いたいように。しかし後半から終盤にかけて少し主人公時雄のあきらめの悪さが、男としては切なくなってします。従って小説の内容もくどく感じてしまった。




現代は、文章は言いたいことを簡潔に言わないと読んでもらえないことが多いので、時間があるけれど情報量が少ないこの時代には、感情の機微を描き切ることが小説としては大切だったのかなと思いました。




作家の中年男性と弟子の女学生という関係で、この恋をみると面白い。師匠という立場の男の身勝手さも見え隠れしている。読む人によって色々な意見はあると思いますが、若い芳子と田中の関係で読んでいくと、恋は理由はなく始まり燃えあがり、大人の思惑とは関係なくすすんでいきます。
時代のモラルとか大人の都合が二人の運命を変えたのであれば、切ないなあと思いました。