この小説の題は「ねむり」で、どのような内容なのだろうと想像も出来ませんでした。
内容は表現が難解な部分もあり、想像以上に読み応えのある小説です。
普段意識しないがゆえに、もしねむれなくなったらどうなってしまうのだろうと怖くなりました。
覚醒とねむりは、人間の生と死にかかわるテーマであり、単純な話ではありませんでした。
*「ねむり」村上春樹著 新潮社刊を読んだ感想になります。ネタバレ含みます。
この記事だけ読んでも何を書いているのか意味不明だと思います。
小説を読んでから記事を読むことを強くお勧めします。
舞台
主人公の女性と家族の住むマンション
登場人物
主人公の女性:30歳、中古のブルーのホンダ・シテイに乗っている。夕方スポーツクラブに通い泳いでいる。小学生の頃は本好きだったが大学では英文科に進んだ。
夫:歯科医。友人と二人共同で診療所を経営している。不思議な顔をしていてクリーム色のブルーバードに乗っている。ハイドンとモーツアルトを聞いている。
子供:小学校2年生の男の子。
簡単なあらすじ(冒頭)
歯科医師の夫を持つ女性。彼女は眠れなくなって17日目になる。
彼女は以前に大学生の時に不眠症のような経験をしている。それは1か月ほど眠れない日々が続き6キロもやせたが周りの人は気づかない。家族も友人も‥。昔の不眠は「眠りのうちに生きていた」という。
今回のねむれないのは昔の経験したものとは違う。ただ眠れないのだ。夫も子供も私が寝ていないことを知らない。そして彼女はねむれないことを恐れないようになっていく‥。
物語の進行と感想
彼女は専業主婦で普通に暮らしている。一見何不自由ない?生活を送っている30歳の主婦だ。
小学生の頃は本を読むことが好きだったのに、大人になるにつれて本を読まなくなっていた。
*結婚生活は順調に見える。
*本を読んでいても意識が散漫になる?、集中できない。夫との関係には多少冷めた部分はあるようだ。
彼女は眠れなくなっているという。
昔にも眠れなくなった経験はあって、意識と肉体が分離していくような感覚もあり眠りの中に生きていた。
しかし結婚した今のは違うという。ただ単に眠れないという。
ある時夢の中で無表情で赤い眼をした老人が出てきて彼女の足に水をかけ続けた。
彼女は体を動かせなくなって、金縛りにあったという。
夫に話すことも無かった。そのあとも相変わらず眠たくならない。
彼女は夫を送り出した午後、迷った挙句にいつもと同じくプールに出かける。
何かを「追い出す」ために。しかし何を追い出すのかは分からない。
それは彼女の体の中に堅く小さい雲のようで、遠くを漂っていた。
眠れなくなってから彼女が思ったのは「現実とは何とたやすいものだろう」という事だ。
一度運用の手順を覚えてしまえば、「あとは反復でしかない」と。
*これは何不自由なく暮らしている人ならば考える人もいるだろう。
しかし彼女は深いねむりに入ることが出来ない。
そして家族も親も彼女の変化に気が付いていない。
間断のない覚醒が2週間を過ぎた時に彼女は自分を鏡で眺める。
彼女自身が若返っているのを知る。
図書館でねむりについての本を見ると「人間は思考においても肉体の行動においても、一定の個人的傾向から決して逃れることは出来ない」と書いてあるのを発見する。そして眠りこそがその傾向を中和するのだと。
彼女はその文章を読んで、自分の人生とはいったいなんなのだろうと疑問を持つ。
反復の先に何もないと思った彼女は「眠りなんかいらない」と決心する。
そして彼女は眠れないことを恐れなくなった。「私は人生を拡大しているのだ」と。
大事なのは集中力である。「集中力のない人生なんて、目だけ開けて何も見ていないのと同じことだ」と。
しかし彼女は次第に何かが間違えていると思い始める‥。
*頭がうまく機能しなくなることで錯乱しているともいえるのだが、「何かが間違えている」とはっきりと意識がある。自分の反復する人生に対しての漠然とした不安なのか。
*眠ることで自分の個人的な傾向が維持されてしまうことへの、無意識の恐怖なのか。いやそれが本当の理由ではないと思った。人間から習慣を奪ったら生きることが難しくなる。決まったことがあるから安心できる。
【仮説】生と死が隣り合わせにあるとしたら、覚醒とねむりも同じ世界に存在している。
ねむりから覚めるのと覚醒からねむりに入るのと二つの間にきっかけも仕切りも存在しない。
ねむりと覚醒に境目の理由をつけても意味がない。
なぜなら二つは続いて繰り返しているからだ。
覚醒だけでは存在できないのだ。
【仮説】最後「目覚めよ」ではなくて、彼女に対して「眠りに入れ」と彼女の車を揺さぶっている“もの”がいる。しかし揺さぶるのは目覚めよという行動であり、何かがおかしい。
人生そのものが間違えているのではないかと考えている。
“自分の考え方からか将来への不安”が、強烈に彼女の意識を揺れ動かしている。
*それを解消できないことが彼女の眠りを邪魔していることに気が付いた。
そしてその何かを修正しなければいけないことを知る。
*しかしそれは現実から離れたことであり、彼女を周りの世界から引き離すものなので、今まで決して正面から向き合うことが出来なかったものだ。
【仮説】彼女は眠ることで自分のある傾向が(細胞の一部が)中和され、勝手に再構築し維持されてしまうことに恐れをいだいている。
それは彼女がこの不完全な人生に対して覚醒しつづけたいからだ。
彼女はねむれないことを心の中では許してはいない
彼女が自分の深層にある心の闇を解決し、他の人間も自分も不完全な生・存在として許せた時、彼女は不安から解放されて眠れるのかもしれない。
しかしその解決策は彼女自身を深い闇に落とすことになりかねない。
それは彼女自身の体と精神がはなれてしまう傾向があるからであり、そんな自分を責めることになるからだ。
「ねむり」は生きるために必要な繰り返しであり、自分がまわりと同期・同化する時間
彼女はねむれないことを心の中では許してはいないのだ。そう自分を攻め続けている。
そして他の人との同期もはかれない。
つまり彼女の人生は不完全で連続していない。常に何かが間違えている。
*別の角度からとらえないといけないようです。
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