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陸王 池井戸潤著 集英社刊 レビュー

陸王を図書館から借りてきて読んでみました。集英社刊の本で588Pとかなり厚い本です。
レビューもマラソンのように長丁場になりました。4部になっています。

まだ小説を読んでいない方は、別にもう一つ「陸王 あらすじ おすすめ 語句」の記事がありますので、そちらを読んでください。
ここからは本編の内容にかかわる事柄も含まれていますので、読み終えた方向けです。
読む前に考えてくださいね。

(読み始め~360Pまで)

「こはぜ屋」は足袋製造の老舗。
社長宮沢紘一の悩みはライバル商品が増えて足袋の売り上げが減少傾向にあることで、新たな商品を見つけないとこのままでは事業もジリ貧だ。新商品となれば新しい設備・人材・ノウハウが必要になる。資金調達を含めて障害が山積している。悩む社長だが、知恵を絞り新規事業の立ち上げに挑むことを決意、新製品はランニングシューズに決まった。

ルーズヴェルトゲームと比較してしまう。陸王はルーズヴェルトゲームと比べて何が違うのか。
登場人物は多い。会社や取引先の社員、陸上の選手などは同じ位の人数だが、明らかにページ数がプラスになっている要因は、下記の二人かなと思う。

二人あげたいと思う。

一人は銀行の若い担当だ。転勤になったが、こはぜ屋のために親身になって働いてくれる人。若手銀行マンのサラリーマン人生を書いている。
銀行の新担当も登場するので、比較することでサラリーマンとしての生き方の違いも浮き彫りになる。

もう一人は社長の息子で、職業探しで苦労しているのだが世の中があまりにも厳しくて、すこし不自然。しかたなく家業の手伝いをしている。入社してきた先輩をみて、会社の新製品の立ち上げに参加する中で成長していく。
二人の生き方の違いは若い世代の生き方を表しているのか。特に息子の気持ちの変化は丁寧に描いている。

他にも会社経営を失敗してしまった中年男性、大手シューズメーカーのベテラン社員の転職、サラリーマンとしての葛藤や悲哀も描いているが、こちらは物語の本筋にかかわる人物である。

成長や変化を描いているので、物語の幅を広げているしディテールは細かく深い、一方ドラマが沢山で、物語の軸が薄れてしまわないか疑問は残りました。

(終わりに近づきました)

*読み初めて2週間、図書館への返却日が近づいていたので、図書館に行って延長ができるか聞いた。運良く予約者がなかったものだから本を借りた。もちろん2週間だ。

さて応援していたランナーが新製品のこはぜ屋のシューズで復活の兆しを見せて、こはぜ屋の素材をいかした事業も軌道に乗るかと思われたところで、主人公に過酷な運命が襲い掛かる。
中小企業の生死を賭けた戦いが始まった。池井戸さんの独壇場です。

その戦いは、小説家が話を絶対におもしろくするんだという執念、と重なって思えた。

作者は、主人公が小さな成功をして皆がまとまり、良かったというときに、今まで以上の大きな苦難を用意して、主人公に襲いかかる。もう450ページをすぎて後150ページ弱を残すところでだ。
その現実が姿を現す、「大企業と中小企業の立場の違い」だ。容赦のない大企業の論理は身につまされる。圧力をかけてくるというか立場の違いを思い出させるというか、一瞬勝てるかもしれないと言うのを現実に戻される。横綱に翻弄される軽量力士のようなものか。

ハウツー本では、おもしろい小説にするための要素として「主人公をいじめること」が大事だ、というがまさしくその法則に則っている。もちろん筆者は、読者が納得できる様な結末を用意できるているのだ。計算して作れるのは、やはり職業の物書き。

読者の想像を超えて主人公が窮地に追い込まれると、読者はクライマックスから目を離すことが出来なくなる。窮地の内容も工夫している。
つまりこの筆者のパターンはこうだよねという所から意識してハズしていくのだ。高度なテクニックだ。

「ここへきてこの苦難を出してくるか」という驚きがありました。しかもクライマックスから終わりに向けてストーリーをどう展開し完結していくのかが、読めない。

もちろん読者に思いつくような結末では、プロの小説家としては食べていけない。
俄然興味が倍増してきます。もう筆者の思いのままに操られている。

ここからは小説の終盤のドラマを楽しみたくなりました。
途中長くて、少し間の間延びした感覚も忘れてしまった。
あと100ページです。

(最後に)

第15章こはぜ屋の危機458ページから大きく動いたドラマは、最終的に設備投資をどうするかという経営判断を伴い、社長の経営判断や生き様までをみせろと迫る。様々な人間が微妙に絡みながら「ビジネスの世界で生き残るための闘い」が続く。こはぜ屋社長としても初めての経験ばかりで勉強の日々だ。大きな決断だ。色々な人の助けを得て物語はいい方向へ回転していく。そしてライバル会社や銀行との関係も変わっていく。

人間は目先の利益では動かない、信頼関係があってこそのものだ。陸上選手もそうだ。決戦のマラソンレースに向けて、この小説のテーマが静かに語り始める。そしてマラソンレースは、見事なエンドロールでした。

少し不満があるとすれば前にも書いたが、息子の成長物語か。これで小説自体も長くなっていると思う。
この小説のテーマである中小企業の生き残りの物語に、最初は腰掛でいた息子が立派になっていく過程必要だったのか、少し疑問は残りました。

レビューはここで終わりです。読む人によって感じ方は変わるとは思いますが。

*作者のテクニックを感じた。
「新商品の売り込みの文章について」を書き出します。

小説を120Pまで読み進めただけだが、非常に筆者のテクニックに感動し内容に共感した部分があった。料理に例えれば有る程度の素材しかまだ出ていないのに、何でこんな味が出るの。という感動を覚えたからだ。小説の進行にかかわっていることで、「起承転結」で読者を話に引き込むテクニックを利用している。これで「人間の感情」や「商売のおもしろさ」を表現している。

それは新製品の陸王を販売しようとして「いろいろ営業を掛ける」くだりで、一番目は銀行の営業マンが紹介してくれた企業陸上部の選手に対する営業、二番目はショップの店員さんからの紹介で動く営業、三番目は営業をかけるのではなく相手から電話が掛かってくるお客様と言うものだ。
最初苦労して開発しても、一番目の陸上部の選手に対して新しい商品を売り込む営業は大変だな、という出だしから、二番目のショップの紹介で、ひょっとしていけるかなという軽い期待に変わるも受注できずガッカリ、奈落の底へ落とされる。しかし三番目の意外な方向から問い合わせがあって受注する。

営業を女の子に対するプロポーズと例えてみれば、一番目は高嶺の花、二番目は手の届くレベルの花、三番目は予測しない相手からのアプローチ、こんな感じでしょうか。恋愛は商売ではないのでちょっと違いますが。

話の展開の仕方が「さすが!」です。シューズの売り込みの過程で「思わぬおもしろさ」に当たったので書きました。

自分も営業時代に経験したことがあるのですが、最初から見込み客を絞り込んでも受注できるとは限らないんですよね。あまりに自分の可能性を狭くする可能性もあるんです。一生懸命営業をかけて実らなかった事例が、別のお客様の受注をする時に役だったり、意外な所から注文が有ったりして、商売は面白いものです。池井戸さんも同様の経験があったのでしょうか。

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