時間を旅する不思議な物語-「図書館奇譚」村上春樹著-感想-カンガルー日和より

物語のテーマを描き出す「時間」の役割

この小説は、時間が物語のなかで重要な役割を演じています。気にせずに読んでいるとなんとなく物語がすすみますが、よく読んでいくと登場人物の姿・言葉に変化がみられます。時間はしっかりあって人物の陰に隠れて小説をすすめている。
「時間の性質を書いている」「時間の中に人は生きている」と思いました
その変化し存在する性質とは以下のようなものです。

「時間は流れる」。小説は時間の流れを書いている。
「時間は忘れるもの」図書館では時間を忘れがち。
「時間は次元を持つ」。夢と現実が混在する。重なっている。
「時間は超越する」。記憶は時間を超越して生きる。
「時間は限りがある」母の死。人の人生は有限。
「時間はなくなるもの」脳味噌を吸われると時間はなくなる。
「時間は繰り返す」人間の性。同じ生き方を繰り返す。

*時間は人の人生に寄り添って、人に色々な感情を与えるもの。
普段の生活で意識しなくても色々なドラマを生んでいる。

そして時間が経ってから“浦島太郎の物語”のように、以前の体験が“冒険”であったことを知ることもある。

母の息子への愛情に思いをはせた

この小説のテーマは「冒険」であり「活劇」であるが、そこには“息子への母の愛情”が隠れている。
それには時間が重要な役割を演じていて、それは「新月と闇」を見ることで鮮明になる。
時間の存在と月の存在は、人が普段生活しているうえで「両方ともあまり存在を意識しない」という点でとても似ています。
そして一生懸命に生きていればこそ、そこに目を止めることができない人の哀しさがあります。
いつも子供のことを気にかけている母という存在・愛情の大きさを思います。

母親の死から彼は時間には限りがあることを知ります。
冒険とは母の愛情があればこそできるものだったことを知るのです。

図書館の闇には若き日の過ちもあり、人生のつらい一面も隠れていました。
この記憶は時間を無くすこと・「脳味噌を吸われることで楽になる」のかもしれません‥)

しかし主人公はその闇から脱出できました。
時間を取り戻して未来に希望が生まれたのです。
主人公の未来が明るい方向に向くことを願わずにはいられません。
くれぐれも時間を繰り返すことが無いように。

*最初に読むと何が言いたいのだろうと疑問が出てきました。
2回目に読むと感想に書いてある解釈が思いつきました。
3回目に読むと感想に対して自信が無くなりました。
物語にはヒントが沢山書かれていて色々読み取れる小説です。
読む人によって感想は違う。だから村上春樹さんの小説は面白くて人気が高いのかもしれませんね。
興味の出た人は、是非一度読んで自分で確かめてみてください。

【注意】この感想は個人的で勝手な意見でしかありません。
最後まで読んでいただきありがとうございました。