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翼を広げ飛ぶカモメ

「図書館奇譚」村上春樹著-感想-カンガルー日和より-過去の自分を見つめると冒険があって母がいた

「図書館奇譚」村上春樹著 を読んだ感想になります。 
*「カンガルー日和」講談社文庫刊より
あくまで個人的な意見です。推測によるネタバレを含みます。
記事を読む前に、小説を読むことをお勧めします。

最初にサッと読んでみて「変わっているけど面白い物語」だなと思いました。あとがきを読んで気になったことがありました。それは村上春樹さんのこの図書館奇譚を書いた理由です。この小説は家内の「連続ものの活劇を読みたいという要望に答えて書いた」というもので。この“活劇”の意味に疑問が生まれたからです。
辞書で活劇を調べると活劇とは「激しい格闘」とあります。そこで自分なりに“冒険活劇”ととらえることでこの小説を再度読んでみました。

舞台

【市立図書館】
どこの市なのかはわからない。貸し出しコーナーはある。地下に107号室がある、地下には迷路がある。その先に閲覧室がある。しかし普通の図書館のイメージとはだいぶ違う。
*本が音を全部吸い取るとあるが、書籍棚に沢山あるとは書いていない。

登場人物(登場順)

【主人公の若い男性】
母親に買ってもらった新しい革靴を履いている。図書館には百回来ている。「自分の思いとは逆のことを言ったりやったり」する。性格が弱い、すぐ泣いてしまう。むくどりを心配するなど優しい性格。
自分の生き方を決められない人?、自分から時間を手放している。

【貸し出しコーナーにいる中年の女性】
主人公がいままで見たことがない女性。左目で本の左のページを、右目で右のページを読んでいる。期限を調べるなど時間に厳しい。

【老人】
度の強い眼鏡をかけている。ちりちりとねじれた白い髪があるが禿げている。上の人間に規則を押し付けられているようで、主人公の言動に色々小言を言う。「何か不吉な存在」のようにも「怒りっぽいだけのただの不幸な老人」にも思える。そして「閉館時刻など問題ではない」という。

【羊男】
羊の格好をした小男。本物の羊の皮をすっぽりとかぶり、手には黒い手袋、足には黒い作業靴をはいている。頭には黒いフェイスマスクをしている。
(全体的に闇に隠れてしまうような格好だ)コーヒー・クッキーを持ってきてくれる。
老人の部下らしいが、うまく立ち回っている。主人公と親身に話をするがあくまで他人事にみえる。

【美しい少女】
年は主人公と同じくらい。口がきけない?。
手と足と首は今にも折れてしまいそうなくらい細い。長い髪は宝石を溶かし込んだように光り輝いている。夢でしか見ないような少女。夜になると出てきて主人公に料理を差しだす。
新月になると透けてしまう。主人公に心で語りかける?

【母親】
心配性でいつも悪いことばかり想像する。テレビをよく観ている。主人公が夜遅くまで帰らないと発狂してしまうかもしれない。子煩悩?
小説の最後に「母は死んだ」と語られる

【むくどり】(スズメ目ムクドリ科の鳥の総称)
主人公が家で飼っている鳥。父親のいない寂しさを紛らすため?
*彼の相棒であり、彼を守ってくれるもの。

*キャラクターはそれぞれ強烈な個性がある。何かをイメージして登場している?。彼が人生で出会ってきた人たち・世の中の闇に住む人々を表しているような気もする。はっきりとは分からない。

物語の導入部:簡単なあらすじ

主人公の若い男性は市立図書館に本を返しに来た。別段強く読みたい本があった訳でもないが、貸し出しコーナーでオスマン・トルコ関連の本を探しているというと、地下室に案内された。部屋には老人がいて借りたい本を持って来てくれたが、本は貸し出し禁止だった。彼は図書館の地下で本を読むはめになってしまった。閉館時間が迫っているのにもかかわらず…。

読む際に注意したこと。

図書館の様子は彼の記憶が曖昧なのか、夢の中の話なのか、図書館とのイメージとは異なる。特に地下の牢屋は何か悪い組織を想像させるものだ。
・主人公が借りた本にはオスマン・トルコの収税史の話がかかれている。
・老人は規則や経費だのを口にし若者を注意する。妙に社会活動や経済活動に厳しい。
・羊男は老人の前では従順なようだが、自分の気持ちを隠すのが上手で世渡り上手。まるで理想のサラリーマンのようだ。若者が入ることを待っていた?
美しい女性の立ち振る舞いと言動。

感想を書こうと思ったきっかけ:「母親が死んだ」の文章

この小説の感想を書こうと思ったのは、小説の最後に出てくる「先週の火曜日、母親が死んだ」という文章を見たときからです。その文は現実的で明解な時間をあらわしています。しかしそこまでの主人公の冒険してきた時間割はあいまいです。これは話の繋がりの中で大きな違和感を生んでいます。
再度読んでみて自分の冒険に対しての読み方と、この小説においての冒険の解釈が、その意味が違っていることに気が付いたのです。
感想は「主人公と母に対する思い」を中心に据えて物語をさかのぼり推測することにしました。それがしっくりくると自分は思いました。

「主人公の母への思い」が隠れている、そう思ったのは美少女の言葉から

最初は美しい少女は、「若い男性が夢見る女性の姿だ」と思いました。それはあこがれでもあり魅力的なものです。しかし途中から美しい少女のいう言葉には変化が出始めて、それを壊していきます。
P228「いいから、ごはんをお食べなさい」という言葉にハッとしました。小説を戻ってみると、P224でも同様の言葉を言っています。
P218でも「泣くのはやめて、ごはんをお食べなさい」と言います。そしてP228には「ここを出て、お母さんと“むくどり”のところへ一緒にかえろう」というのです。
何か年上の女性「母」、または「妻」を思い浮かべるのは自分だけでしょうか。これは主人公が若い時・人生に悩んだとき、言われた言葉なのではないかという解釈です。

もちろん美しい少女は、以前の「主人公の恋人」だった可能性もある。
それは彼の読んでいた本の中ではあるが、「新月の時に美少女を抱いた」という文章に書かれている。
また彼女が新月の時に透けることも小説の中に書かれているので、彼女との間に別れか何かあったのかもしれない?(月の満ち欠けは女性の体の周期との関係が深いといわれている)
*とにかく様々な女性が混じりあって「美しい少女」を作り出している。

ただ今回の自分の解釈としては、この言葉は以前母から言われたことで、「何があっても生きろ」という生命力の意味が強く反映していると思った。
「ごはんを食べて元気を出して」という“母の励ましの言葉”ととらえました。

この物語は主人公が人生を振り返っている

図書館での経験は、まともな時間割で考えることができない。閉ざされた空間で空気感もない以上、「脳味噌の中での話」で彼が夢の中で今までの記憶をたどっている。人生を振りかえっているという見方がすることにしました。

推測にもとずく感想

彼が何処に住んで、どのような人生を歩んできたのかは分かりません。小説の中の物語では、青年のころから最近までの人生を描いていると想像しました。図書館の話は彼の人生における冒険を象徴している。
彼は今は少なくとも図書館の外の世界に戻れていて、普通の生活をしている。
小説の最後に「母が亡くなった」と書いているように、この小説は母が無くなる前、母が危篤状態になった時に「自宅で彼が見た夢」を描いていると思いました。だから夢の中には「彼の人生で経験したことが、記憶の断片として重なり合い出てきている。
母の死という現実」を目の前にして彼の心には色々な気持ちが湧き出てきた。自分の母が亡くなるかもしれないと状況は、自分の記憶を揺り動かした。不安から様々な思いが浮かんできたのではないか。

推測ですが、彼は若い時に母の元を離れて暮らしていた。気の弱い性格から暗い地下の世界に連れ込まれて、色々な危ないこともあった。そして外に戻ることが出来た。彼は超人でもなければヒーローでもなくお金持ちでもなさそうです。そう「いたって普通の男の子だ」と思います。それでも性格によるものか、時間を放棄した彼は、振り返れば「冒険をしてしまった」。そんな風に読めました。
*辞書を調べると、冒険とは「危険を冒すこと」とあります。
彼が望んだものではなかったが振り返ると危険なものだった。

ただその冒険から脱出出来て、現実の世界に戻り素の自分を取り戻した時、「母の死」という現実が待っていた。
*彼の母との人生を振り返って時に湧き上がる虚無感や母に対しての後悔含めて様々な思いが浮かんできました。
彼の気持ちを考えるととても切なくなってきました。

彼の心には穴が空きました。その気持ちの穴を埋めてくれるのは新しいものである“新月”なのか、または“地下にある深い暗闇”なのか。小説はどちらにでも行ける形で終わっています。
彼は自分の意志で、新しい人生を新月に誓うことも出来るし、再び地下に戻ることで悲しみを忘れることも出来るのです。
自分は彼の心は新月に向かっていると思いたいですし、希望が生まれてほしいと思いました。

*次のページでは、さらに「図書館奇譚」の魅力について分析してみました。