時間を旅する不思議な物語-「図書館奇譚」村上春樹著-感想-カンガルー日和より

この小説の魅力を考えてみた。

「新月」の表現しているもの

新月のとらえ方によって光を見るか、闇を見るか見方が大きく変わってきます。
新月の意味をどうとらえるかによって、この小説のファーストインプレッション(印象)が変わってくるからです。
自分はてっきり新月とは出てきたばかりの綺麗な月を想像したのですが、実際に辞書を読んでみると、真黒で見えないという事です。

つまり「新月とは=綺麗な光を放つ月のはず」というように、物事を浅く見ているとこの物語は『図書館を冒険する好奇心旺盛な少年?の不思議な物語』で終わるが、
「新月とは=何も見えない真黒な月」というふうに知っていると、『この物語は光もあるが深い闇をもつ世の中を現わしている』ことがわかる。

図書館が舞台である不思議さ

「新月」という言葉の意味をどうとらえるかによって、物語の解釈が大きく変わるように、図書館の存在も謎に満ちています。
“図書館”の意味を考えました。
最初の『冒険する好奇心旺盛な少年?の不思議な物語』でいうと、図書館は、“本を読み知の冒険が出来る希望に満ちた場所”であり。
2番目の『物語は光もあるが深い闇ももつ世の中を書いている』でいうと、図書館は“迷い込むと深い闇を持っている場所”になる。
図書館を普通にとらえるか、本当に図書館なのか?と疑問を持って読のか、二つの見方があって、冒険の意味も「無知な子供のもの」と「経験を積んだ大人のもの」と二通り出来てしまうということです。
それがこの小説の解釈の分かれるところで面白いし、二つを同時に含んでいることが凄いところだと思います。

著者は世の中を描くのに図書館を使っているように思いました。
図書館は知識(本)が豊富にあって「効率とは一線を画している場所」ですが、逆に登場人物は「効率的な経済を演じている」ので、図書館のイメージとの違いからおかしさが出ています。

冒頭の主人公が語る図書館の描写は、その意味や価値を知らない「主人公の無知」を現わしているようです。
そして図書館は知識を貸し出す場所だということはその通りだが、ただでは無いらしい。本から知識を得ても“最後は脳味噌を吸い取られる”。怖いけれど世の中の怖い一面を示しているようでとても意味深です。

*かなり深く深く物語の世界へ、時間の役割について考えます。