電車を止めるな! 呪いの6.4km 寺井弘樹著 PHP文芸文庫刊
8月3日映画化!とのWEBを見て、まさかと思った人は多かったと思います。忘れかけていましたが本屋で発見してしまった。「電車を止めるな!」これはレビューを書くしかないと決めました。*読む前に注意、若干のネタバレあります。
*映画の公開は今年冬に延期になったようです。
(主な登場人物)
銚子電鉄社長 蔵本さん(54歳)
唯一の女性社員 音無京子さん
顧問 星野さん
ベテラン社員 斎藤さん
(お客様=心霊電車乗客)
谷川亮太(You Tuber)
めむたん(心霊アイドル)
蓑毛よだつ(怪談師)
広瀬じゅず(霊媒師)
謎のサラリーマン風男性
この題名をみて思い出すのは昨年インディーズ映画として大ヒットをかました「カメラを止めるな!」でしょう。
本の装丁はデザインも色合いも似ています、なんでも『カメラを止めるな!』の監督上田慎一郎さんに連絡して了解はいただいているそうで、銚子電鉄の現状をいれたうまい題名だなと思います。映画は8月3日(破産の日)公開で2匹目のヒットを狙っているのです。
(あらすじ~導入部)
銚子電鉄の経営は相変わらず厳しい中、車両・車両運搬費、レールの補修点検費用、車両の点検修理費用など1憶数千万をいかに工面するか社長や社員は悩んでいた。社長が閃いたのは『呪われた心霊電車』で、ネット配信で心霊現象を中継するという斬新なアイディアだ。
7月12日深夜2時出発に決定。色々なお客様が集まってきた。ユーチューバーの男子、心霊アイドルの女の子、怪談師、霊媒師、謎のサラリーマン風の男。成功するかは一発勝負!社員の涙ぐましい奮闘もあり、無事に心霊電車は出発したのだが‥。
ノンストップのホラーが読者を襲います。
銚子電鉄の路線は6.4kmでその間に広がるのはキャベツ畑や近隣の風景で、深夜の2時となれば沿線の家の明かりも無いので、静けさの中に漆黒の闇が広がる。その中をゴトンゴトンと音を立ててゆっくりと走る電車は、それだけで怖いのです。
電車の中は狭くて少し暗い、癖ありの乗客は色々な目論見をもってこの電車に乗っている。キャラクターがそれぞれ面白い。最初はゆっくりとある意味想定の範囲だった恐怖は、『呼んではいけないもの』も惹きつけてしまったようで、急ピッチで走り出す。そして電車内は修羅場になっていく。途中意外な人がこの事件に関係していることが分かり、最後はすこしホロリとなる場面もあります。
『止まれない電車』というのは、昔からパニック映画の定石として使われてきた手法で、一瞬ハリウッド映画の超特急電車などを思い出しました。これは「大変な事故」になるという恐怖です、しかし冷静に考えると銚子電鉄は最高時速40kmなので、ハリウッドの列車のスピードが100km超があたりまえなのを思えば、大変な事故というよりは地元にとって「イタイ事故」で銚子電鉄の「後がこわい事故」になる訳です。
スピードは遅いものの乗客の気持ちになれば恐怖が早く過ぎなくて、真綿で首を絞められてる様にユックリなので、逆にスピード感が無いのが「怖い」と背筋が寒くなった。さらに、電車が故障なのか、霊の仕業なのか、その辺の境がつきにくいのも怖~い。このリアルさは銚子電鉄以外では出せない。なので電車を止めてはいけない!
小説の舞台は狭くてほとんど電車と駅とその沿線に限られているので、話の展開に限界はあります。映画化を前提とした書下ろしの小説としては、良くできていると思いました。しかしそれでも映画の製作費は足りるのだろうかと心配してしまうのは、銚子電鉄だからですね。
銚子電鉄は2022年に設立100年の節目を迎えます。無事に迎えられますように、気になる人は本を買って映画を観ましょう。凶と出るか吉をでるかはあなた次第です。
【追記】2020年9月に映画が公開になりました。さっそく記事を書きましたので、よろしかったら読んでください。下の記事をクリックすると「映画の感想」に移動出来ます。