*「別役実のコント教室」-不条理な笑いへのレッスン 白水社刊 を読んだ感想になります。
ここからが後半です。戯曲・不条理劇を作るためのヒントを書かれています。
レッスン【ストーリー思考とプロット思考】
ストーリー思考とプロット思考という2つの考え方の違いも勉強になりました。
我々は普通、ものごとをストーリーとして理解するが、それを演劇にすると説明的になってしまう。
演劇はプロットとして読み、書いていくようにしたいという。
*確かに主人公が時間軸に沿って話を演じているだけでは、演劇としては退屈です。
【プロット】小説・脚本などの筋。筋書。構想。出典:広辞苑第三版
『プロットは因果律という』
プロットは「どういう原因がどういう結果になったか」という原因と結果の因果関係が組み立てられているもの。
作者は、戯曲とは構造で出来ている、一種の建築物だといいます。
ブロックとして考える、画面展開をくぎるのですが、「新しい登場人物が出てきて引っ込むまで」になっているとか、それがどう繋がっていくのか、それが伏線につながることだといいます。
*かなり難易度高いと思います。建築物を作るのに構造の勉強から始めるということです。
よくプロット(筋書)を付箋に書いて、ホワイトボードに貼っていき、物語を組み立てていく方法がハウツー本で出ています。
感想
まずは、自分なりの感覚、展開、文体を作り上げていくことが大切である。
沢山書いて勉強する。そして自分のプロットの作り方を探して自分のものにしていく。段階を踏むことで構造がみえてくるのではないでしょうか。
*自分で書けもしないのに偉そうに言ってます。(・_・;)
少し横道それますが「オチ」の話
以前4コマ漫画を基本とするストーリーの組み立て方や、漫画のストーリー研究本を読んだことがあります。クライマックスをしっかりつくり気の利いたオチがある。だから面白い。そこに作者の力量がでると思ってました。
しかし別役さんは「オチは自然とついてくる、落とし方は決まっている」と断言されているのに驚きました。
つまり最初にクライマックスありきでなくて、「設定」「登場人物のキャラクター」「プロット」を作り展開を考えると、おのずとオチは決まるという事です。
クライマックスとオチを決めておいて、そこに向かって進むのは、繋がりがないご都合主義で共感できない物語になります。
また読み方によっては、「うける落とし方のパターンは決まっている」という風にもとれました。
*アマチュアはオチを気にしないで、文章を楽しく書くことにつきますが。
レッスン【不条理劇の書き方】
別役さんの書かれた「受付」という戯曲をテキストにして、「コント」と「それよりも長いもの」を書く時の違いを語っています。
*「受付」がこの本に載っていないので、この講義の内容が具体的に感じられなかったのが残念。
コントはワンアイディアで締めくくり、もっと長いものはワンアイディアで締めくくれるものをいくつか集合させて、一幕の芝居にするために構造を決定する必要がある。
二人でいるときに「2元的進行」が必要になってくる。「受付」の物語で言うと女性が受付の上で仕事(作業)をしている、独自の時間が流れている。そこに男の人がやってきてちょっかいを出して物事が2次元的に進んでいく。
これがコントを書くにあたって非常に重要で、一人が「日常性」でもう一人が「非日常性」であっても、二人ともじっとしているのはダメ。
両方が動いていてその2次元的なものが混じりあわないとダメだといいます。
ねじれていけて、それが流れとなっている。これが不条理劇というものを作る基本的な方法という。
*不条理とは
①道理に反すること。不合理なこと。背理。
②実存主義的な用語として、人生に意義を見出す望みがないことにいい、絶望的な状況、限界状況を指すのに用いられる。
出典:広辞苑第三版
二人芝居の時は基本形として、一人が正常(常識的)でもう一人が異常である。
観客は正常に近い男の方を追体験することで、状況の異常さみたいなものがだんだんわかってくる。
事実を述べながら同時に事態を進行させていく。少しずつ変化させていかないといけない。
事態を斜めに動かして話の内容と事態を同時に進行させていかないといけない。
お話を聞き取ることと演劇的な体験とは別だという。
事態を停止して意味を伝えるというセリフの形は、説明になって演劇的ではないという。
同じセリフを書いていても、そのセリフにあった事態が進行していることが分かれば、それは演劇的な体験になる。
*よって演劇とは舞台上に立っている役者に観客が共振したり共鳴したりすることによって体験できるわけです。
感想
別役実さんの書かれた『受付』を読んでみたいです。読まないとわからない点もあります。
本に書かれていることを理解するには、経験に基づいた専門的な技術が必要になりそうです。
最後に
朝日新聞の2020年5月の朝刊に「ひもとく-別所実の世界」という記事がありました。
劇作家の岩松了さんは「別役実さんは不条理劇の第一人者」と書かれています。
喜劇と悲劇をかき分ける方であったそうです。
この本のテーマとして、「死体」だとか「爆弾」だとかを題材として取り上げているのも納得しました。
不条理は現代ではなかなか理解されにくいのではないでしょうか。
現実の出来事が創作よりを越えて不条理であったりする事もあります。人々が創作に求める価値も変わってきています。また社会的なモラルが世界共通のこととして形成され、ナンセンスも程度が重視されています。
ネットやSNSでの拡散も怖いですしね、小シアターの芝居にしても全くの自由というわけでもないですし、コントも不条理も時代の空気によって変わるものです。
この記事で取り上げたのはホントに断片的です。
私の個人的な視点で取り上げているため分かりにくいと思います。
本では、他にもコントや喜劇を書くためのヒントが沢山書かれています。
不条理劇や演劇のシナリオ、コントの習作を書いてみようという方に参考になると思いました。
お薦めの本
新聞の記事の中で、岩松了さんはお薦めの本として2冊挙げてます。
・「別所実Ⅰ壊れた風景/象」 ハヤカワ演劇文庫
・「マッチ売りの少女/赤い鳥のある風景」 日本劇作家協会
二十一世紀戯曲文庫ベストセレクションVol.2⑤
*自分は、今回紹介した本後ろ著書の紹介欄に載っていた下記の本を読んでみたいと思いました。
・「眠り島」 白水社刊
*令和2年3月に別所実(べつやくみのる)さんは、お亡くなりになったとのこと、ご冥福をお祈りいたします。