何がなんでも小説家になりたい-鈴木輝一郎著-感想-小説家の生活がみえる

「何がなんでも作家になりたい」 鈴木輝一郎著(株)河出書房新社刊 本の感想です。

書名を見たときに、またよくあるハウツー本かなと思った。でも中身は違っていました。
自分は小説家志望者ではありません。
何がなんでも~という題名に惹かれたのと、小説家の生活に興味がありました。
読んでみて面白かったのは以下の3カ所です。
*「何がなんでも作家になりたい」より一部引用・参考にしました。

第1章 「書くのはひとりでも作るのはひとりではない」

1番目の「書くのはひとりでも作るのはひとりではない」は、小説志望者が出版社の担当さんとの打ち合わせ(売り込み)のくだりで、何本かプロットを書いて説明する場面がでてくる。
ベテランでもプロット通りに書けないのに、新人がそのプロット通りに書けるわけがない基本は「現物勝負」であると言っている。
まずは完成させることが第一で、その現物が自分の評価になるということです。
下手な技術論を展開するもでなく、ズバリ核心の言い方にうなりました。

プロットは、担当者と打ち合わせをする小説家希望の人にとって大切なもので、相手に何かしらの良い印象を与えたい、というエゴから提出するものです。
才能のある小説家希望者に対して、無から有を生み出すと言うことを軽くみるなよという忠告とも受け取れる。
初心に戻って「物を造り上げることは苦しい事だ」「だから納得できる物もできる」ということの大切さを思い出させてくれます。

*プロットとは。(小説・脚本などの)筋・筋書・構想。広辞苑より引用しました。

第2章 「転職先としての小説家」

2番目の「転職先としての小説家」は、小説家志望の人の気持ちを代弁しているようであり、実現は甘いものではないよという注意喚起のようでもあり、意味深な言葉であると共に、覚悟を要求していると思う。
筆者もこの本を出すこと自体も、自分の小説家としての新たなステップにしたい、と書いている。安定はなく、いつも挑戦が必要ということでしょうか。

また小説家の収入についても具体的な金額は余り期待していなかったのですが、細かい出版社や複数筆者がいるときの話や、返本、講演会なども細かく解説されていて、そちらの方も興味深く読めました。

第3章 「絶対確実に新人賞を受賞できる方法」

3番目は「絶対確実に新人賞を受賞できる方法」の中の「最後まで書き上げる、せめて駄作にたどりつこう」の一文で、小説家を目指す作者の心理を鋭くついている。
そんな方法があれば苦労はしないであろうと自分も思いましたし、駄作でも書き上げてから新人賞に応募するか考えましょうとも受け取れる。
厳しい言葉ですがユーモアもあるので語り口はやさしい。

*以上は、ほんと自分がいいなあと思った一部分です。

感想

小説家を目指していない自分としては、読み物として単純におもしろいと思った。
すべてが小説家として自分の経験した事を中心に据えているのも「腰が据わっている」し「説得力」がある。
普通のハウツー本としてみると語りが多いので、少し面食らう部分もあるかもしれないが、ハウツー本でも、当たり前のこと(今まで語られてきたこと)を方角を変えて焼き直ししているだけだったり、マニュアルのように内容は整えてあるが大変なことは触れていなかったり、などどいう類の本ではない。

実際に基づいて書いているので、筆者も2度とはかけないはずで、そういう点でいさぎよいです。
私的な小説家としての物語性もある。

いい意味で裏切られたし、硬いテーマを面白くしてしまう、筆者の達者な文章力には舌をまきました。
小説家を目指している人も、そうでないが小説家の生活に興味がある人にもお勧めします。