ショートショートマルシェ-田丸雅智著-感想-意外な組み合せが楽しい小説

最近特にメディアで話題の作家さん。工学部出身の作家さんで物語も精巧に作られた18編の「ショートショート」でした。
それぞれの物語を俯瞰できるとしたら、恐らく意外なものが組み合わさった『精巧なミニチュア作品』のように見えるのではないでしょうか。
*「ショートショートマルシェ」田丸雅智著 光文社文庫刊 より

読んだ感想になります

小説の印象としては、「アイディアを活かすべくしっかりと構成されている」がまず先に来ました。無駄がない文章です。もう一つは「結末のキレ味というか、オチが効いている」所です。視点もフレッシュで、マルシェの食材を生かした創作のイメージからも「若さ」が感じられました。
東大出身の作家さんという事で、とにかく破綻のない運びです。安心して楽しめる本です。

*ひとつ気になった点を挙げさせていただくと、いいとか悪いとかという話ではないのですが、小説の進み方です。話の展開が「アイディア活かすこと」を優先していて、人物はその設定にそって動いているような印象がある所でしょうか。(短篇なのでキャラクターを描く枚数がないという事も、理由のひとつにあるのかもしれません)

【マルシェとは】

フランス語で意味は「市場」、朝市も含まれます。フランスではこのマルシェが盛んにおこなわれているそうです。
マルシェのテーマは野菜や果物のイメージもありますが、実際には肉・魚・乳製品など食べ物から、花・雑貨・衣料品などと様々あるそうです。

自分なりの角度を付けた目線で小説を読んで、とくに面白いと思った3篇を挙げてみました。
順番は本の掲載順です。
*ネタバレはありませんので安心してください。

「踊茸」(おどりたけ)

踊りと茸の組み合わせがユニーク。茸好きの青年が田舎町で不思議な体験をする。そこで若い女性を紹介される。その出会いはよくある話で普通なのだが、茸の不思議な物語とはあまり相性が良くないのがおかしい。お祭りが出てきて物語は懐かしさがでた、そしてお祭りと茸は相性がよく混ざり合っていた。

「鯛の鯛」

主人公がおばあちゃんの料理を思いだして食べたいなあと思う話。この感情が読者にもダブるので「共感できるテーマ」だと思った。主人公の味の世界から、鯛の姿まで想像されて話の展開が絶妙。最後の不思議な様子から「謎」も残している。

「二枚目の」

人体の一部「舌」の話である。とても信じがたい話なのだが、現在の人体の科学の進歩をみているとまんざら不可能でもないのかもと思わせてくれる。それ故に主人公の気持ちには不思議に共感できた。しかし彼の欲望が大きくなるにつれて、読んでいる方も怖くなってくる。それは恐らく人間の欲には限りがないからかもしれない。

読後感

「そんなバカなと言いきれない」ショートショートマルシェの不思議な小説の数々にひととき時間を忘れて読みいってしまった。現在の世の中の状況からすこし離れるのにはいいかもしれません。
現実をもとに「あり得ない」といってしまうと「ショートショートは成り立たない」と今回改めて思いました。作者の田丸さんは「ショートショート」の面白さを広めていきたいと語っていましたが、その意気を感じました。

ショートショートを書くポイント

最後にこの本を読んで「ショートショートを書く際におさえたいポイント」を考えてみました。

アイディアはお互いに関連性のない「言葉」を2~3個組み合わせることで考えてみる。(ありえない組み合わせほど考えていて楽しいかも)

ショートショートは短いので、登場人物は一対一が基本になっている。いわゆる対話形式である。

事(事件)の前後を説明する必要はないので(説明していると長くなるから)普通の会話から、物語が始まる。

奇想天外な人・物が登場する。または不思議なことが起こる。 (これは冒頭や中盤、場合によっては後半に起きる) 事件がなぜ起きたのか・理由は不要。

二人の会話から進行していく。クライマックス(謎解き)まではじっくりと語られる。

クライマックスからオチ(ラスト)へはあまり時間をかけない。オチは「なるほど」となればなお良い。せっかく盛り上がった話の『ネタ』を活かす効果もある。「オチ」がないとうまく終わらない)

読んだ後に余韻が残ればベスト。

以上が私が個人的に思い浮かんだ「ショートストーリーを書く時の注意ポイント」です。
これを守って書くのは技術がいります。
偉そうに書きましたが、私にはまだ書く能力はありません(汗)

みなさんは読んでどう思いましたか?

読んだ方の中には「他のショートショート」や「他の作家さんが好きだ」という方も多いと思います。 皆さんのお気に入りはどんな物語ですか。
読み方にマニュアルなどありません。ショートショートは自由に読みたいときにリラックスして読んで、あれこれ思いを巡らすのが楽しい。自分は空いた時間に読むのがいいと思いました。

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