「セリーグとパリーグの質の違い」について-プロ野球の考察-里崎智也著「非常識のすすめ」より

2020年の日本シリーズ「巨人対ソフトバンク戦」はソフトバンクの圧勝で終わった。
セとパの実力の違いについて語られていました。
今回里崎さんの本を読んでいたら、“セとパの野球の違い”ついての分析が書かれていました。
視点が面白かったのでそれを取り上げさせていただきました。
また他の解説者や新聞の記事、私見も加えて「セとパの質の違い」について考えてみました。
*里崎智也著「非常識のすすめ」角川書店刊(2015年発刊)を参考にしています。

里崎さんの語る「人気のセ、実力のパ」の真相。野球の違いについて

本のなかで里崎智也さんは「セとパの実力の違い」について書いています。
里崎さんはセとパの野球の違いから「実力の差」が生まれている理由を3つ上げています。
それは「ストライクゾーンの違い」「DH制の有無」「FA市場」です。
里崎さんが本で述べていることをまとめてみました。実際はどうなのか。
また他の解説者の意見・一般論も含めて個人的に考えてみました。

1. ストライクゾーンの違い

ストライクゾーンはパリーグが狭くてセリーグは広い。
セパの審判交流」があった時のジャッジを見ての感想だという。
パリーグの審判はルールにのっとってジャッジするが、セリーグは高低・内外に少し甘くとる。
*キャッチャー目線なので間違えないと思いました。
自分はセリーグは高めに少し甘いような気がします。

2.DH制の有無

昨年日本シリーズ後に、セとパの実力の差についての「大きな原因」としてDH制が話題にあがりました。
DH制を導入すると強打者がDHに座るので、セが投手が打席に立つのに比べてパの得点力がアップする。
チーム内競争も起きてくるので、パリーグチームの打撃力がアップする。
打力が上がるので相手投手も実力をあげてくる。
いい循環ができてくるというものです。

しかし里崎氏は異なる視点で書いています。

里崎氏の理論によるとセとパの実力の違いは、「DH制が投手に与える影響ポイントだという。
DH制を採用していないセリーグは、負けていると中盤以降はほとんどピッチャーに代打を送る。
しかしパリーグは中盤までに負けていても続投させることもある(当然完投もある)。

つまりパリーグは僅差であれば打線が奮起して逆転することがあるので、投手はいけるとこまで投げさせる。
パの投手は勝ち投手になる可能性が高まる。つまり(DH制のおかげで)パリーグの方が「投手にチャンスが与えられている」という。

投手にとって踏ん張って見方が逆転して勝ったときの「勝利」はこれ以上ない自信になる。この起用方法が選手を育てる。いい投手が育つパリーグの土壌を造っているという。

「DH制はゲームの戦略を変える。選手の可能性を消すこともあるし、逆にその可能性を広げることもある」ということです。
打撃面からのアプローチでなく、投手からのアプローチが面白いと思いました。
打線が先か投手力が先かは、鶏が先か卵が先かの議論と同じになるのでむずかしいですが、捕手の目線で見るとこうなるんですね。ただ打線は水物で投手によって変わりますし、投手力の方が計算できるのはよく知られている所です。

3.FA市場

野球の質の違いがFA市場にも影響を与えている。
(ソフトバンクは違うが)セからパへ移籍する選手は少ない。
ほとんどがパからセに移籍する。
過去の戦力の移動からもセとパの実力の違いを見ることが出来るという。
最近もパリーグの選手がセリーグに引き抜かれることが多い。
逆にセリーグの選手がパリーグに引き抜かれることは少ないように思います。

またメジャーリーグ(MLB)志向の選手が多いのはパリーグの選手です。
実力を手にした後でどこに挑戦するか。セリーグという選択よりも、「上のレベル」であるメジャーに目が向くのは当然なのかもしれません。

セとパの実力の違いが生まれた「背景」

ZOZOマリンスタジアム04
ZOZOマリンスタジアム04

【球場の大きさ】も関係している?

本の中でも里崎氏が神宮球場に行ったときに“狭い”とおもったことや、東京ドームで外野フライがHRになって驚いた時のことなど書かれています。

実際に本拠の球団サイズで言うと、 セリーグはパリーグに比べて狭い球場が多い。
神宮・甲子園・横浜は他球場に比べてサイズが小さい。
一般的には球場が広いと投手が有利になり、狭いと打者が有利になる傾向がある。
球場の大きさで野球も変わってくる。
パとセの野球の違いと無縁ではないと思います。

【プロ野球の発展の歴史】も影響している-TV中継と新聞の力-球団経営

セとパの人気アップ対策の違いです。

野球人気を支えてきたのはセリーグの力が大きい。
歴史を見るとTV中継の視聴率や新聞の購読などがファンの獲得や観客動員を増やしてきました。
それは野球が勝負にこだわるとともに、興行として「人気重視」とか「ファンの拡大の維持(喜ばせること)」を大切にしてきたからです。

スター監督を起用したり人気の選手を使いました。
『解説者』も選手を盛り上げるコメントが多くなった。
球界の『人気を維持するモデル』でした。
人気はあったので、外部から提言がいえる環境になかったわけです。
球団と外の関係が維持されてきた。
*これはあくまでも個人的な意見です。

一方 パリーグは TV中継などが皆無だった。力でその存在をアピールするしかなかった。
だからパリーグはセとの勝負にこだわり、パがセとの直接対決で勝つことで証明してきた。
パリーグは苦労して経営努力もしてきた。
毎年ファン獲得に企画を出し続けてきた。
そして今がある。

日本人メジャー挑戦-【MLBやWBCの野球から学んだパワー不足】

野茂をはじめとするメジャーへの挑戦は、日本でプロ野球選手をめざす子供にとって刺激的な出来事でした。
放送も増えメジャーへの憧れを育ててきた選手も多い。
特に野茂・イチローらの活躍はパリーグの選手に大きな影響を与えた。

メジャーの力勝負やWBCなどで他国の野球のレベルアップを見て、日本野球はチームワークやテクニックは優れていたものの、一層パワーアップを迫られました。
レベルの高い舞台での活躍を求めていた選手にとってパワーの強化は必須になった。
この流れがバックグランドにあり、個々の選手の意識が変化してきた。

データー測定機器の発達による【データー野球の推進】

データーによる分析は、海外発の弾道測定器「トラックマン」が野球にも使われ始めた。
いまや日本の本拠地スタジアムのほとんどに設置されています。
「投手の投球の分析」「打者の打球速度・角度」などデーターによる戦力分析が当たり前になり、より高度なAI分析が採用されています。

パリーグには、ソフトバンクや楽天など日本で有数のIT企業が存在しています。
相手チームの戦力分析は企業秘密なので表には出てこないので、チームごとの差は測りかねますが、「IT関連企業が参入」したのはパリーグの戦力UPに大きな役割を果たしていると思います。

セとパの違い-コーチや解説者の目線

某パリーグ投手コーチが、セとパの違いを「投手からの分析」として3項目を挙げています。

【1】パリーグで活躍している投手は、セリーグと比べて「高校卒業後すぐにプロ入りした選手が多い」というものです。

参考までに両リーグピッチャーについて調べました。
*2020年個人投手成績の上位5名です。(単年度の限られたデーターです)
セリーグ成績上位1から5位は、大野・森下・菅野・西勇・久里です。
このメンバーのうち大学卒でプロ入りした選手が4名で高校卒でプロ入りは1名でした。
パリーグ成績上位5名はどうかというと、千賀・山本・有原・涌井・高橋光のうち大学卒は1名で高校卒は4名でした。
*昨年の成績上位ですが、パリーグの選手の方が多かったです。

【2】パリーグをセリーグの投手の性質の違いについて語っています。
パリーグは強いボールを投げる投手が多い」ということです。

2020日本シリーズ2戦目の記事に「ボールの強さ」についての観察・分析があります。

【2020日本シリーズ:スポーツ紙より】
ソフトバンク対巨人の2戦目(13-2でソフトバンク勝利) について、“先発投手の球の強さ”についての記事がありました。
それは巨人「今村信貴」ソフトバンク「石川柊太」との投げ合いについての記事です。
石川のボールが今村と比べると強かった”という部分です。
巨人「今村」のボールに対してパリーグ打者のスイングは強くて打ち損じをしない。
今村はファールでカウントを稼ぐことが出来ず甘い球を仕留められた。
一方ソフトバンク「石川」の強いボールに対して巨人の打者が対応できず、甘い球でも押し込まれてファールになったことが多かった。

石川がファールでカウントを稼いでバッターに対して有利になったのに比べて、今村はファールでカウントを稼げなかったので、精神的に厳しくなったという。
投手の腕の振りの鋭さ、打者のスイングの強さ・速さも違っていた。

数年前パリーグの打者に交流戦でのパリーグ優位について聞いたところ「普段ダルやマー君とやっていますから」という答えが返ってきたという。
これは「パリーグの投手のレベルが上がっている」のが理由だと言っているのだと思いました。
フルカウントでセリーグの投手は変化球で勝負してくることが多い。パリーグはストレート系が多い。
フォアボールを出すくらいならストレート勝負したい。そんな意識があるという。
ストレート勝負にはパリーグの捕手にイケイケのタイプが多いのもその理由にあると指摘しています。

【3】DH制の採用が打線に与える影響です。

これは以前からセとパの勝負の違いとして指摘されていることです。里崎さんの部分でも書きましたが、DH制によって外国人助っ人やFA選手などが入団してきて、日本人選手のレギュラー争いが激しくなった。
そしてパリーグは打力が上がった。

まとめ

複数の解説者がパとセの実力の違いについて指摘している事が、“打力”でなく“投手力”であるのが面白いと思いました。打力は二の次なのでしょうか。

データー測定によりバッターが丸裸になる時代、投手がデーター通りに弱点に強いボールを投げることができれば、抑える確率は上がります。
投手の役割は先発完投型から分業担当制へ変化しました。
多くの投手が登場し、それぞれの武器を活かしやすくなりました。

近年環境が大きく変わったのは投手です。
投手力がチーム力を左右する時代が来ているのかもしれません。

プロ野球の世界に入ってくる選手の能力の差はほとんどないと言われます。
球団の育成方針や戦う環境で違いが生まれる。

セとパの違いは「質」であって、それが育成方針を変えていく。勝敗を分けているというのが一番合っている。

現状セとパで野球の違いが出来てきた。
その違いは平成から令和野球史においてセ・パ野球ファンがプロ野球に「何を求めてきたか」のうつし鏡であるともいえると思います。
セリーグの選手が勝負にこだわれば「日本シリーズでの敗退」は屈辱的なはずで反攻があるはずです。
ファンあってのプロ野球なので、ファンが熱くなるような試合を期待します。

皆さんはどう思われましたか。(注)個人的な意見も含んでいます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。