夢のような不思議な物語-人間社会を風刺している「眠り島」別役実著-感想

「眠り島」の世界は何を表しているのか

「大きな社会の仕組み」が問題として小説に隠れていると思います。それは下記のようなものです。
国・権力・経済・産業・被害者・医療・労働組合・地域格差・介護・社会弱者・人体・倫理観

そしてこれらを語る物語のベースには「不条理」があり、社会の闇が見え隠れします。ただ深く隠れているゆえに、普通の人間には気がつかず進んでいる。ホーボー氏はそんな「気がつかない人間代表」のような役回りをしている。

そう考えると単純なユーモア小説ではないということが分かります。
作者のテーマが明確にあるからです。

自分の感想としては、テーマには、「国の成り立ち」、「権力者と弱者の格差」、「地域格差」、「経済を重視する社会のひずみ」、「都合がいいヒューマニズム」があると思いました。そしてもう少し大きく言えば「文明の歪みや危うさ」です。
この小説はそんな現代社会を風刺することで、未来に警鐘を鳴らしているのではないかと思いました。【注意】自分なりの解釈です。

ホーボー氏の「やり方」が面白い。次第に不条理が浮き彫りになる。

この小説の主人公ホーボー氏はそんな状況に負けることなく、見事に苦難の方を戸惑わせ、やりすごしてしまう。その不条理な世界に身を置いても気負うことなく「自分のやり方」ですすむホーボー氏が面白い。ところどころで大笑いしてしまいました。
そして最後苦難をやりすごしたホーボー氏は、いままでになく自身が「ホーボー氏であること」を明解に知ることになります。

軽いブラックユーモア小説として読んでいくと、途中から様子が変わっていきます。それもこの小説の不思議な所だと思いました。(この小説が出版されたのは1991年になります)

小説のホーボー氏に寄り添い、むずかしいことはやり過ごして、ホーボー氏の生き方のように肩の力を抜いて読むのがいいと思いました。
決してやさしい本ではありませんが、興味のある方は是非読んでみてください。