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翼を広げ飛ぶカモメ

「猫を棄てる」父親について語るとき-村上春樹著-感想


戦争は国の存亡をかけた戦いであり、普通の国民は戦争を目の前にして回避することはできない。若者は兵役を拒むことも許されず戦地にかりだされた。男女問わず個人の運命は大きく変わっていきました。




もし父が兵役解除されなくて、戦線の送り込まれていたら‥‥、もし母の婚約者が戦死を遂げなかったら‥‥と考えていくと、村上さん自身の誕生もなかったかもしれないと書いています。







村上春樹さんが父の生き方を回想する。
この本は村上さんが「父と自分との接点を追いかける記憶の旅」だと思いました。今は交流することが出来ない父の魂を思い、その心を推測する旅のなかに、村上さんが今まで封印してきたという「父との関係を整理して残すこと」がみえる本だと思います。
*自分なりの解釈を書いています。ネタバレも一部あります。読む際は、その点を理解の上読んでください。




猫を中心に置いてレビューを始めた




父と同じ時間を共有した中で記憶に残っているのが、「猫を棄てるときに共有した感情」というのがこの小説の中心になっている。




その時代に誰もが身近に経験したかもしれない「猫に関しての記憶」であるというのは、特別(戦時下)でなく日常が戻ったという意味であり、それが「父にとってはとても嬉しい出来事だった」という事を書いています。村上さんの記憶に残っている風景には「その父の思いが残されている」と思いました。




猫が表すインプレッション(イメージ)とは




・猫は時代を表徴するものではない
時代を超越して我々に提供してくれる「生き物のぬくもりというか、本来猫が持つ自由さを象徴するものとして小説に現れている」そう思いました。




・猫の生命力とはかなさ
最後の方で松の木に上って鳴き声が聞こえなくなる子猫については、鳴き声は「生命力の力強さ・豊かさ」を表し、その声を直に聞くことで自分が生きていることを確認できた。そして鳴き声が「聞こえなくなることで」すぐ隣にある「生き物の命のはかなさ」を想像させるような場面でもある。




*猫という存在が表現していること
つまり「猫」は自分が生命を意識できる・生きている証拠が確認できるもの、『平和の象徴』として描かれているのではないか。




時代背景・戦争体験者について調べてみた




村上さんが書いた本ではありませんが、他の昭和史・第2次世界大戦の体験者に聴き取りして書かれた本を読んでみました。
そこから戦時下・戦後の空気として読み取れたことがありました。「猫を棄てる」のテーマに近い文を抜き出して書いてみました。




・戦争から帰ってきた父は、体験を語らなかったが、「息子に伝えておかなくてはならない」と感じていた。




・戦争体験者は日本に戻り平穏な家庭の中に身を置くと、「戦場での過酷な経験を語らなくていいのか自問自答する」ことになる。彼ら(戦争体験者)は誰かに自らの体験を語って死にたいという気持ちを持っていた。




・「昭和を知ることは自分を知ること」である。
「自分の父や母がどう生きたのかということについての疑問」は、自分が存在している我々の立場を確認するために必要なことである。




・「父母がどういう時代に生きてきたかを知らないで生きている」という事は、自分の子供や孫に「自分のことを語る際に歴史の縦の線を持たない」という事になる。




・戦場体験は聞く側も覚悟が必要。「戦争で亡くなった(殺された)人を弔うという精神」がないと戦場体験の証言など聞いてはいけない。




感想




村上さんの父の生涯は壮絶なもので、信じがたいもの(描写)でした。戦争を知らない人間として、数年前まで普通に暮らしていた人間が、国のため招集されて戦場に行きその人生が変わっていくのは、なかなか想像ができません。




村上さんも戦争を実体験としては知らない世代だと思いますので、戦争体験のある父と自分の生き方との間にある隔てるもの、壁であり境界を意識していたはずです。




学業優秀だった父は、息子を見て自分の歩めなかった人生を歩んでほしいと思っていた。村上さんは父の期待に応えられず悩んでいた、次第に関係は冷え切っていった。




大人になっても父と息子の隔てるものを解決する手段はなくて、そうしているうちに父との別れが来る。話そうとしても理解されないだろうという父の気持ち、村上さんがその溝を埋めたいと思っていた気持ちが伝わってきます。




戦争体験のある親は、「子供に歴史を伝えなければという気持ち」と裏腹に、「伝えることの難しさ」「子供にはひどい・嫌な体験など話したくない」という葛藤があった。
そして戦争があったがゆえに、自分が達成できなかった夢を実現してほしいという強い思いもあった。




村上さんの父も子供の成長、精神の安定に気を使っていた、ゆえに言葉が出てこなかったのではないのでしょうか。戦争が世代間の壁を作ったのだと思います。




父と子との葛藤が色々あった。そして時が経って父との関係を語る決意ができた。成功した村上さんだから本になるし注目される、世の中にその歴史を伝える役目も果たせている。




村上春樹さんが本の中で父を語り出版されることで一般の人にメッセージを伝えられた。村上さんも父への理解が深まりその関係を整理できたのであれば、その二人の関係に対して、天から「それに相応しい場所が与えられた」のだと思います。

自分はこの本を読んで、「猫を棄てる」はそういう役目があったのだと思いました。




*文中の高妍(Gao Yan)さんの挿絵が丁寧に書かれていて、なつかしい雰囲気。猫のたたずまいが素敵です。




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