*村上春樹全作品1990ー2000 短編数Ⅱ 講談社刊より
【舞台】
庭付きの一戸建て、庭には椎の木が1本ある。
近所には家がない。
ドアは玄関に一つだけ。
【登場人物】
・既婚女性:主人公。
・獣:緑色の光る鱗(うろこ)がある。
鼻が長く先端は鞭のように尖っている。
目だけは普通の人間の目でくるくる回る。
ピンクの手足に長い爪。
【あらすじ、導入】
夫が出かけた後、家の中に残された女性。
「庭の椎の木」が好きな女性は、何度も心の中で椎の木と会話していた。
その時に椎の木の根元の地面が盛り上がり,地面が割れると「緑色の獣」が這い出てきた。
獣はドアの隙間から中をうかがっている。
息をひそめていないふりをする女性。
女性は心で獣と通じるうちに、意外にも獣の心はマシュマロのように柔らかく傷つきやすいことに気づく。
そこで女性は‥‥。
【感想】ネタバレ注意
ある女性宅の庭から緑色の獣がでてきて…、という話で、読み進めると不思議な感覚になります。
最初に感じた怖さが変化していきました。
女性と獣との話を読んでいると、主人公と同じく気持ちの変化が起こるんです。
この獣はなんであるかについて自分なりに考えてみた。
やはり最後の方のこの文章が気になる。
「ねえ、獣。おまえは女というもののことをよく知らないんだ」この女性の言葉がヒントになる。
獣は「人間の男」なのでは、と想像してしまう。
であるとすれば、男がわりと昔の女の子とを思いだして「ウジウジ」「うつうつ」していたり、『自分の殻に閉じこもっていてはっきりと告白が出来ない』という、弱くはっきりとしない性格を持っている事も多いので、作者はそれを獣に投影して動かしているのかなと思う。
女はそんな奴は全然気にしてない。という一言で片付けられるということだ。
もちろん作者は獣に「男以外のもの」を投影しているのかもしれませんが‥。
もしこの獣を「人間の男のようなもの」としてとらえると、落ち着きがなかったり舌足らずないいまわしだったり、すぐばれてしまうようなウソを言ってみたり、他の人の言葉に敏感に反応したりして、一々面倒な動物だ。
しかしこの獣は普通の男と大きく違う点が二つある。
ひとつは人の心が分かると言うことと、もう一つは力の有る無しは分からないが敵意も悪意もないということだ。
ある意味獣がおかした一番の失敗は、すべて自分を正直に出してしまったことだ。
それが為に女に攻撃をうけてしまった。
女の言葉で「そういう種類のことのことなら私はいくらだっていくらだって思いつけるのだ」という言葉がでてくる。
どのような種類のことが、どの位思い浮かぶのかを想像すると、獣は何なんだろう?という疑問よりも、この女性の心の中は『どのような考えで何で出来ているのだろう?』という疑問がとめどなく湧いてきた。
そしてその女性の心の底が怖くなってきた。
また自分も男性なのに、獣に対する気持ちが悪意に変化するのはどうしてなんだろうとも思いました。
*最後までお読みいただきありがとうございました。