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村上春樹著 氷男 感想

*「氷男」 村上春樹全作品1990ー2000 短編数Ⅱ 講談社刊より

氷男と結婚した若い女性の話。スキー場で出会いその魅力にとらわれていく過程も興味深い。少し変わった女の子だが、影のある異性に関心のある年頃とみれば納得できました。

「氷男とは大人の男」という風に自分は捉えた。はたから見れば危ういが男はしっかりしている。女性は納得して結婚しているので不安はあっても希望が見える話だ。

かといって気楽に読めるかというとそういう小説ではない。何か哲学的に「愛のある冷たい結婚生活」を淡々と書いている。最初は幸せな結婚生活を送っているのだが、途中からにわかに男性の色が強く出てくる。
自分は「男の束縛心」と捉えた。言い換えれば亭主関白のようなものかなと思う。

普通の人間との結婚であれば、「夫に束縛されることを喜ぶ」女性も多いのではないのかなと思う。それは男性がその女性を独占したいという気持ちの裏返しであり、男性の関心を一心に受けているという証拠でもある。
母性として子供を生んで育てることを生涯の仕事と考える女性にとって、束縛は支えてくれる保証にもなりうる。それと女性は男性の独占欲もそんなに続くものと思っていないのかもしれない。

さて氷男に戻ると、この男は「人間ぽい」が人間ではないと観た方がいいだろう。氷の様な心の硬さを感じるからである。そしてその結晶は寸分の隙も探せないほど正確だ。
もちろん氷は地球が存在してからずっとその形で生きてきていのだ。「自然の法則」に沿って生きている。言い返すことは危険だ。

普通の女性がその冷たさに愛を感じて結婚するのは愛の不思議さか、若さ故にその神秘的なところに惹かれたのか。いずれにしても愛とは、そんな人には理解の出来ないところから生まれる。
愛する人に惹かれてその目を盲目にしてしまう。他の人の意見を聞かない。主人公の女性にとって「南極に行こう」というのも決意の表れだったのかもしれないが、男性としては人生設計の一つであり以前から網を掛けていたのかもしれない。

南極が氷男の故郷であれば言葉が通じにくいというのも分かる。

女性は冬であろうが交通が無かろうが、子供を授かった段階で、もうその地が大事な生活が場所になる。
愛があるから大丈夫と流行歌などは唄うが、実際には良いことばかりが待ち受けているばかりではない。
それが分かってくるのは、女の子が女性になり母になる過程なのかもしれない。そしてその過程は自分の過去を氷らせて遠くに保管していく位の覚悟が必要なのかもしれない。少し厳しすぎるかもしれないがこの小説の主人公はそういう立場にいきなりたたされたのかなと思いました。

この男性(氷男)側に立っての感想もあるとは思うが、今回は主人公の女性側から感想を書きました。

不幸な話でもないので、どんなに厳しい運命であろうとも愛と希望があれば乗り越えられるという人生賛歌としてとらえたい。