村上春樹さんが影響を受けた作家「レイモンド・カーヴァー」とアメリカ文学

アメリカ文学を読むにあたって忘れてはいけないこと

・アメリカが歴史の浅い若い国であること。
・国土が広くて地域によって文化が違う。
・多くの移民からなる多民族国家。

アメリカ文学の魅力とは、『若々しさと激しさが混じりあったダイナミックな力強さ
『世界の果てまでも突き進んでいく恐れを知らぬ冒険心
『自分とは、アメリカ人とは何者なのかをとことん見つめようとする姿勢』
自然を深く愛する一方、都市生活を楽しもうとする奇妙な矛盾』
など広大な国土多様な人々があつまって様々なドラマが生まれるところ。
“尽きることのない魅力”がある。
*「はじめて学ぶアメリカ文学史」より一部を引用・参考にしました。

アメリカ文学の各時代

この本によるとアメリカ文学の時代を7章に分けています。
各章の時代背景とキーワードについて下記に書き出しました。
レイモンド・カーヴァーは、第7章:アメリカ文学の現在(1960年から)に出てきますので、アメリカ文学の成熟(第5章)からアメリカ文学の現在(第7章)までは少し詳しく書いています。

第1章:植民地時代の文学 から 第4章:リアリズムと自然主義の文学

第1章:植民地時代の文学(17-18世紀ー1607-1800年)
【時代思潮】希望、荒野、神政政治、ピューリタニズム(神学思想)。
17世紀終わりに啓蒙主義、18世紀後半は独立戦争と政治の時代。
【代表的な作家】(初期アメリカの散文)
ベンジャミン・フランクリン、コットン・マザー、ジョナサン・エドワーズ

第2章:アメリカ文学の独立期(19世紀ー1800-1830年)
【時代思潮】独立宣言後の矛盾(法律はイギリスに準拠、経済でも従属)
独立戦争に勝利、自由と民主主義の盟主国へ。奴隷制の問題。
【代表的な作家】(アメリカ小説の胎動期)
チャールズ・ブロックデン・ブラウン、ワシントン・アーヴィング

第3章:アメリカ文学の開花(19世紀ー1830-1865年)
【時代思潮】北部の製造業(食品繊維など)の伸長、交通網の整備、自然の無差別な破壊。
北部の産業資本主義と南部の奴隷制純貴族主義(農園)の対立。南北戦争(1861-65)
【代表的な作家】(ロマン主義的な文芸興隆期)
ラルフ・ウォルド・エマソン、エドガー・アラン・ポー、ハーマン・メルヴィル

第4章:リアリズムと自然主義の文学(19世紀後期-20世紀初頭ー1865-1917年)
【時代思潮】自営農民の国から先進工業国へ。大陸横断鉄道、西部開拓。インディアンは完全に鎮圧。移民は都市の工場労働者に。都市化ならではの社会問題を生む。自由放任資本主義経済が貧困を生み不況を繰り返した。新聞や雑誌の発達。
【代表的な作家】
(リアリズム文学)マーク・トウェイン、ハウエルズ。
(自然主義文学)クレイン、ノリス、ドライサー。

第5章:アメリカ文学の成熟 1920~30年代(1917-1940) 

【時代】アメリカは資本主義世界の中心に。20年代は「ニューヨーカー」など新しい雑誌の創刊が相次ぐ。20年代はモダニズムの革新性と実験性。30年代の基調はリアリズム。矛盾をさらけ出した社会と地域の問題、アメリカそのものを見つめ直す。

【キーワード】都市化、大量消費社会、享楽と快楽追及、自動車・ラジオ・洗濯機・ジャズなど。

【代表的な作家】
(リアリズム文学の深化)(失われた世代の作家)
・アーネスト・ヘミングウェイ(1899-1961)「武器よさらば」
・ウィリアム・フォークナー(1897-1962)「アブサロム、アブサロム!」
・F・スコット・フィッツジェラルド(1896-1940)「偉大なるギャッビー」
(大衆文学)レイモンド・チャンドラー(1888-1959)「大いなる眠り」

第6章:第二次大戦後の文学 1940~50年代(1940-1960)

【時代】第二次世界大戦に参入。アメリカは自由主義世界の指導者。米ソは冷戦の時代。自由主義陣営と共産主義陣営の対立。

【キーワード】大型自動車、生活水準の向上、繁栄の時代。国家権力の肥大・管理社会。青少年の無軌道な行動。サブ・カルチャーの始まり。黒人の公民権運動。
戦争小説、ルポタージュ文学、黒人文学など。

【代表的な作家】
(戦争小説)(新しい南部の作家たち)(黒人文学の深化)
・ノーマン・メイラー(1923-2007)「裸者と死者」
J.D.サリンジャー(1919-2010)「ライ麦畑でつかまえて」
・トルーマン・カポーディ(1924-84)「ティファニーで朝食を」

第7章:アメリカ文学の現在 1960~80年代(1960-2003ごろ)

【時代】ケネディ大統領就任、「希望と脅威」、キューバに社会主義共和国誕生、人種差別反対運動、ベトナム戦争長期化、女性の権利拡張運動。「アメリカ再生」強く正しいアメリカを求めた。

【キーワード】伝統的で普遍的な価値観・倫理観からの逸脱。独自のコミュニティや文化が開花。大衆文化・若者文化。平和環境・ジェンダー問題など社会改革につながる時代。
*参考にしている本が2004年発刊のため、現在とは2003年ごろまでです。

【代表的な作家】
(ポスト・モダン文学)(現代のリアリズム)(新しい現実の模索)
・ジョン・バース(1930-)「酔いどれ草の仲買人」
・カート・ヴォネガット(1922-2007)「チャンピオンたちの朝食」
レイモンド・カーヴァー(1939-88)「大聖堂」
・ジョン・アーヴィング(1942-)「熊を放つ」

まとめ:アメリカ文学の魅力とは?

1960年代の文学は「ポスト・モダン」という概念。

ポスト・モダン」とは前時代の文学(叙事詩・神話・寓話・ファンタジー・歴小説など)を利用したり、生成のプロセスや形式に言及したりすることによって、それが虚構であることを故意に曝け出す作品のことを呼ぶことが多い。
現実を「再現」することを否定し、むしろ言語によって現実を「構築」する反リアリズム的実験をする作家も登場した。

これに対して、「現実」を遍く描き尽くすことは出来ないという絶望感を漂わせながらも、それぞれの「今・ここ」を再現しようとする現代のリアリズム作家「ジョン・アーヴィング」らが登場した。
そしてこの傾向をさらに推し進めたのが「レイモンド・カーヴァー」らに代表される作家だ。
(アーヴィングとカーヴァーはアイオワ大学の居住作家として同僚、創作の指導をしていた)

80年代は「ミニマリズム」

80年代は、「ミニマリズム」であるという見方もできる。
彼らはごく身近な極小の世界で生きる内向的な人々の日常を簡潔な文体で描く。
饒舌で気宇壮大な言語実験であった60~70年代の「ポスト・モダン小説」が時に「マキシマリズム」と呼ばれるのは、ミニマリズムと対置させるためである。

アメリカ文学の魅力

研究者によると、文学史は“その国の文学を全体的に把握する方法”として最適だと言います。
一国の文学がまとめられているので、自由な歴史の旅を楽しむことができる。
一人の作家と他の作家、一つの時代と他の時代の関係が明確になってくる。など魅力がわかる。

アメリカ文学の魅力は、規範にとらわれることがない自由があること。
豊かなエネルギーと時代をリードする新しさがある。
日本はもともと伝統・芸術性・形を大事にする文化を持っているので、アメリカ文学の若さから自由を知るのかもしれません。

他の国の文学を学ぶというのは簡単ではないですが、ある作家をきっかけに世界を広げてみるのも楽しいです。
今回参考にさせていただいた「たのしく読めるアメリカ文学」「はじめて学ぶアメリカ文学史」にはアメリカ文学の歴史はもちろん、代表的な作家の生い立ちから小説のあらすじ・原文(一部)・書評が書かれています。アメリカ文学の研究者さんの書評は凄いと思いました。
文学史は“その国の文学を全体的に把握する方法”として最適だといわれますがその通りでした。
興味のある方は是非読んでみてください。

*「はじめて学ぶアメリカ文学史」板橋好枝・高田賢一編著 ミネルヴァ書房刊より引用しました。
「たのしく読めるアメリカ文学」「はじめて学ぶアメリカ文学史」ミネルヴァ書房刊を参考にしました。

*最後までお読みいただきありがとうございました。