【本のレビュー】「鬼人幻燈抄 番外編」中西モトオ著-感想-都市伝説の怪異に震えた

「鬼人幻燈抄 番外編」夏樹の都市伝説集 中西モトオ著 双葉社刊を読んだ感想になります。*極力ネタバレは少なくするように書きました。

鬼人幻燈抄-表紙
鬼人幻燈抄-表紙

鬼人幻燈抄 番外編 夏樹の都市伝説集

この本は9本の短編からなります。
主人公は藤堂夏樹、高校2年生の男子です。いずれの短編にも「怪異」が登場します。
猿夢、メリーさん、八尺様、口裂け女、トンカラトン、猫の忍者、人喰い、トイレの花子さん。
怪異とは本の中にある言葉から推察すると、化け物・鬼・妖怪・怨霊・亡霊・動物などの起こす事らしい。怪異とは怖いものですが、この本を読んで別の顔を持っていることがわかりました。

「鬼人幻燈抄」とは、何かが起きそうな匂いがプンプン。かっこいいですね。
中西さんはWEB(小説家になろうなど)で小説を発表していて、2019年に「鬼人幻燈抄」で小説家デビューされた方。このシリーズは10冊以上出版され漫画・アニメの原作としても有名とのこと。私は初めて中西さんの本を読むのでワクワクです。

シリーズの他の本は時代が江戸・幕末・明治・大正だったりするので、この番外編は現代版ということなのでしょうか。

おもな登場人物

藤堂夏樹:兵庫県葛野市の戻川高校の2年生。
(藤堂芳彦・希美子夫妻の直系の子孫)
根来音久美子(ねくねくみこ):夏樹の幼なじみで親友、一緒にいることも多い。
藤堂里香:夏樹の妹で中学三年生。兄夏樹になついている。

葛野甚夜(かどのじんや):夏樹と同学年、除霊師の真似事ができる。
姫川みやか:同じクラスの女子。
梓屋薫:みやかの女友達。

【感想】怖いけど、不思議な展開が楽しい

主人公の藤堂夏樹は兵庫県にある戻川高校に通う男子高校生。
夏樹は都市伝説との遭遇率は高いが危機的な状況に陥ったことはない。
都市伝説運がある。怪異とは不思議な友人だという。

ちなみにこの小説には登場しないが夏樹の家族も変わっているらしい。
祖父が慕っているのは鬼。義理の姉は呪われた存在だという。

夏樹は自ら都市伝説に縁があり、怪異なモノを引き寄せるのも必然という。

普通の人は怪異には会いたくないはず、自分の身を守るものというより危害を加えられるイメージが強いからだろう。怪異は世情を反映するものでもあるので、現代の都市伝説では殺されることも十分ある。

その点夏樹は変わっている。怪異を見る目からして違っている。夏樹にとっては悪いことばかりでもない。
夏樹の自然体が生む化学反応なのか?夏樹は都市伝説に出てくる怪異を恐れない。
彼らと普通に会話できる。(時に恋愛感情もありうる)
夏樹は現実世界と怪異世界の境目にいるらしい。

夏樹の心の動きも細やかで丁寧、彼の視点が明快なので、怖さもありつつ、最悪の場面はみなくて済みそう、そんな安心感もある。つまり“異常な怖さ”と“日常”のさじ加減が絶妙なのだ。

怪異たちはそれぞれ個性を持ち、自分の人生?を生きている。
この小説は怖いけど面白い、不思議な感覚が残りました。

都市伝説界隈は興味深いものだった

夏樹はこれだけ怖い経験を積んでいても、まだ都市伝説を勉強しているのでしょう。
彼は間違えなく都市伝説界隈に熟知した遊歩人でありガイドである。
もし貴方がその界隈に紛れ込んでしまったら夏樹呼ぶのが良いと思う。

夏樹と怪異たちとの話は、鬱陶しいばかりの暑い夏を黙らせるような物語でした。
クーラーのよく効いた部屋で読むことをお勧めします。ただ楽しさからいきなりゾッゾッとなるので注意しましょう。ちなみにこの短編の中で、私がゾッゾッとしたのは「猿夢恋歌」です。和歌がこんなに怖いとは思いませんでした。

*歴史上に出てくる史実や伝説・逸話、WEBの掲示板での都市伝説まで非常に興味深いものであり、筆者の知識の深さにも驚く。話の展開にも巧さがある。

夏樹の視点からみる怪異のキャラクターがユニーク。仲間たちとの関係も楽しい。
サービス精神にも溢れ最後まで読ませてくれます。怪異を怖いだけでは終わらせていない。都市伝説の新しい解釈をみたような気がしました。

*最後までお読みいただきありがとうございました。歴史・和風ファンタジー小説に興味のある方は是非手に取ってみてください。達者な筆さばきから、作者の方はいくつなのかなあと疑問が浮かびました。(表紙を描かれているTamakiさんの絵も素敵です)
私も機会があれば別の作品を読んでみたいと思います。