小説ガイドのお手本-「一度は読んでおきたい現代の名短篇」湯川豊著-感想

*「一度は読んでおきたい現代の名短篇」 湯川豊著 小学館刊 を読んだ感想です。

44篇の名短篇についての紹介が載っています。 日本を代表する作家さんばかりです。
少し恥ずかしいのですが、自分は44篇中2編しか読んでいませんでした。今回名短篇についての見識を広めて、何篇か読んでみたいと思いました。

はじめに でこの本が書いていること

この本の作者は日本の短篇小説は、日本の近代文学のドミナント・フォーム(支配的形式)だったといいます。
短篇は明治維新以来の文学の中心でありつづけた。現代の日本の出版の流れはエンターテインメント系の長編が圧倒的に中心に位置している。日本文学は百年以上の歳月をかけて短篇小説のおもしろさを追求してきた。
この本の作者が44篇の短編を選んだ基準は、ただ一つ「読む愉しみ」にあった。この本にとりあげている44篇の名作を読むと納得していただけると思うという。

短篇小説ガイドのお手本

純文学からエンターテインメントまで選びぬいた小説を作者がブックガイドとして、小説家の情報や作品の生い立ち、作品の特徴、感想を端的にまとめて書いています。

一口に短編小説と言え、色々なテーマがあるのに驚かされます。登場人物も色々な人々が登場して気持ちがざわざわしてきます。

短い小説の中に人生の短いドラマが集約されていて、湯浅さんは小説の「主人公」と「物語が持つテーマ」を抜き出して語ってくれます。ので小説そのものを読まなくてもエッセンスを味わうことが出来ます。それがこの本の良いところだと思います。

*色々な小説の要約やガイドを読んでいくと、自分が「小説に期待している事」や「自分の趣向を発見できる」かもしれません。
この本の中に好きな作家さん、興味のある作家さん・読みたい小説を発見したら是非探して読んでみてください。隙間時間を使ってランダムに読むのもいいと思います。

まずは最初に読みたいと思った小説です

44篇の作品すべてを読んでみたいのですが、まずは以下の短篇小説を読んでみたいと思いました。
題名の下には、自分がこの本を読んで知り得た「物語の要約」と「湯川さんのガイドポイント(特徴・読みどころ?)」の一部分を抜き出して書いています。私見が入っているので、参考程度にみてください。
*小説の登場順番は、本の目次の順番と同じです。

「張り込み」松本清張
【要約】東京の目黒で重役が殺され「石井」という男が容疑者として手配される。若い柚木刑事は犯人を追いかけ、石井の田舎山口県に行く。石井の昔の恋人「さだ子」を張ることになる。
【小説ガイド】小説が書こうとしたのは、若い柚木刑事の視線とその先にある犯人の元恋人の姿にある。

「雨」安岡章太郎
【要約】強盗をするしかないと決心した男が雨の降る町を徘徊する話。
【小説ガイド】滑稽にして哀切。痛切。軽い。

「泥棒たちの昼休み」結城昌治
【要約】刑務所に入っている懲役者が、労務の休憩時間を使って自分のしたことを刑務所仲間に打ち明ける話。
【小説ガイド】推理とユーモアが合体。短篇集を読む楽しさがある。

「春情蛸の足」田辺聖子
【要約】大阪の会社に勤める杉野は妻と子供がいる。杉野がおでん屋で幼馴染みの女性にあっておでん屋をはしごする話。
【小説ガイド】大阪の庶民の食べ物がテーマで、そこに男と女の話がからまる。

「風と白猿」宮城谷昌光
【要約】 古代中国を舞台にした推理小説。謎の男「原々斎」が美女の失踪事件の謎に挑む。白猿族という集団の幻想性。
【小説ガイド】 推理小説なのにそれらしく思わせない語り口。楽しさが詰まっている物語。

「最終便に間に合えば」林真理子
【要約】 バブル時代に恋人だった二人が7年ぶりに再会する物語。男女の関係の中に在る「金銭」の話題とその変化。
【小説ガイド】 小説が時代を表している。

*他にも読んでみたい魅力的な作品が沢山ありました。

あとがきで伝えている事

本の作者である湯川さんは、短篇小説は「人生のある時のある姿の断片をスパッと切って見せてくれるもの」である。
「期待をうらぎられることがあっても、大きな失望や苛立ちにならないこともありがたい」と書いています。確かに長編だと期待も大きいですし、がっかりすることもある。なるほどと思いました。

湯川さんが、短い文章の中にしっかりと「短篇小説の面白さ・味わい」を書き、独自の視点でまとめているのは、さすが文芸評論家です。
湯川さんの「短篇小説に対する愛情」が感じられる本でした。
この本は小説ガイドですが、「本レビューの書き方」としても役に立つと思いました。

*湯川豊(ゆかわゆたか)さんは1938年生まれ。文藝春秋に入社し「文學界」の編集長、同社取締役から現在は文芸評論家。多数の著書あり。本の裏側にあるプロフィールを参考にしました。

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