千葉県北西部-「描かれた房総」-感想2-千葉県立美術館

千葉県立美術館コレクション「描かれた房総」千葉県誕生150周年記念展示が、2023.7.19-9.18にかけて千葉県立美術館で開催されていました。

作品はいずれも歴史的に価値が高く、素晴らしい作品ばかり。
千葉県の貴重なコレクションだと思いました。

「千葉県立美術館」
千葉県千葉市中央区中央港1-10-1 (TEL)043-242-8311
【注意】展覧会はすでに終了しています。

【展覧会出品作から一部をご紹介】

千葉県立美術館所蔵の約2800点の作品から、36人の画家による房総ゆかりの作品42点が展示されていました。房総を描いた絵画とはどのような作品なのでしょうか?
千葉県内各地域で描かれた作品を一部ご紹介します。
前回は“東総地域の作品”をご紹介しました。今回はその続きです。
*Noは展示会のリーフレットにあった番号です。

描かれた房総-パンフレットより県北西部
描かれた房総-パンフレットより県北西部

千葉県北西部

No2(千葉市):無縁寺心澄 新県庁と噴水 不詳:紙・水彩

旧県庁と噴水 無縁寺心澄
旧県庁と噴水 無縁寺心澄

旧千葉県庁舎の立派な建物と噴水。水彩画だが強くシンプルな筆使い。
*明治44年にたてられた旧千葉県庁と噴水。(場所は現在の議会棟前の羽衣公園)
“左側にある噴水”は、県立銚子商業高校に移築されて現存しているとのこと。

【無縁寺心澄 むえんじしんちょう(明治38年~昭和20年)】
千葉市生まれ。川端美術学校で日本画を学ぶ。
図案会社に勤務、千葉市を中心に活動した。

No3(千葉市):関主税 園 平成11年(1999):紙・着彩

青葉の森、公園内にある青葉ヶ池。冬の噴水の池の様子。
真中に池、まわりには森がひろがる。
全体的に薄い色使いなので寒い様子、静寂の世界。
池に浮かぶカモが濃くかかれていて不思議に動きも感じる。

【関主税(せきちから)1919~2000年】
千葉県長生郡長南町生まれ。現代日本画壇を代表する画家の1人。
*茂原市立美術館が収蔵している作品として「星辰(せいしん)」(紙本彩色・昭和55年)がある。

No4(千葉市):ジョルジュ・ビゴー 稲毛の夕焼け 1892-1897年頃:板・油彩

描かれた房総
描かれた房総

稲毛の浜の夕焼け、東京湾に浮かぶ船と浜辺の人々の風景が美しい。
(美しい絵に言葉はいらない。稲毛の風景とは信じられません‥。)

【ジョルジュ・ビゴー(1860~1927年)】
フランス・パリ生まれ。美術学校でジェロームに師事、挿絵画家として活動。
1882年に来日して日本各地を旅して風俗を題材にした銅版画を制作した。
*稲毛には明治20年(1897)から5年間滞在した。

No8(市川):川瀬巴水 市川の晩秋 昭和5年(1930):紙・木版

江戸川と市川国府台付近・晩秋の風景、赤と青の独特の色使いが抒情をかきたてる。
手前にススキの穂、川面に高瀬船が浮かぶ。奥にみえる森も含めてバランスが取れていて美しい。
木版ならではのやさしい色合いが、忘れがたい風景をつくっている。

【川瀬巴水(かわせはすい)明治16年~昭和32年】
東京生まれ。鏑木清方の門下になったのち、新版画の制作を始めた。
日本の四季折々の風景を抒情的に描き、東京では古き良き江戸の名残を書いた。
旅情詩人”であり、“昭和の広重”といわれた。

No9(市川):石井柏亭 真間の入江(下図) 明治37年(1904):紙・水彩

石井柏亭 真間の入江(下図)
石井柏亭 真間の入江(下図)

江戸時代から明治にかけて市川の川辺に中州があった。
真間の入江にたたずむ着物姿の女性、その奥に継橋がある。
女性は何を想っているのか、時代の風情がしのばれます。
(紙に淡く書かれた水彩画であり、物語の一場面の様。)

【石井柏亭(いしいはくてい)明治15年~昭和33年】
東京生まれ。浅井忠に師事。後に東京美術学校で藤島武二に学ぶ。
日本水彩画会、二科会の設立に参加、日展でも活躍した。

No10:石井柏亭 冬の朝(行徳) 明治42年(1909):紙・水彩

冬の朝(行徳)石井柏亭
冬の朝(行徳)石井柏亭

小さな川と川辺の草、続いていく先に広がる土地と空。
千葉北西部の冬の風景が描かれる。
牧歌的な風景は中世のフランスの絵画の様。
*行徳の昔の風景には驚くばかり。

No11(浦安):大浦掬水 ベガ舟 昭和46年(1971):紙・着彩

浦安の境川が中央手前から奥に流れる。
その川岸に沢山のベガ舟が係留されている。その大胆な構図と荒々しい筆使いが特徴的。
川岸の道にはお店や家々が並ぶ。商売人も忙しそうに働いている。
船が所狭しと並んで地元の人々の活気ある風景。漁師町が賑やかで楽しい。

*ベガ船とは海藻を採るための小型船。

【大浦掬水(おおうらきくすい)1914~2010】
東京生まれ。南画家。千葉県美術会準委嘱。千葉市美術協会特待。
*市原市役所第2庁舎ロビーには、日本画『濤声』が飾られているとのこと(市原市のHPから)。

【南画】南宗画の略。南宗画とは中国二大流派の一。
文人画派の系譜で、柔らかい描線を用い、主観的写実による山水画を特色とする。
与謝蕪村が有名。*広辞苑第六版より引用しました。

No12(浦安):冨取風堂 朝光 昭和6年(1931):絹本・着彩

朝光が差し込む浦安・境川に小さな波がたち、沢山の帆掛け舟が浮かぶ。
地域のシンボルであった大松と船溜まりが大胆かつ巧みに配置される。
空が淡い薄茶色で濃淡ありおもしろい。

【富取風堂(とみとりふうどう)明治25年~昭和58年】
東京都生まれ。松本楓湖に師事。
市川市に居住し、風景や花鳥などを多彩な作風で描いた。

No14(野田市):櫻田精一 水門 昭和26年(1951):キャンパス・油彩

最初みて何を描いているのかわからなかった。
水門と聞いて納得。作者の自宅があった野田市周辺・金杉の水門とのこと。
画家が昭和26年に戦争が終わり新天地で描いた油絵とのこと。
明度をすこし上げて、色使いを計算した絵。
水門を大きく描きながら、そこに自分の心象風景を写している。
晴れやかな気持ちが明るい雰囲気を醸し出す、作者の心情がしずかに絵を包んでいる。

【櫻田精一(明治43年~平成11年)】
熊本県生まれ。日本美術学校に学ぶ。野田市に住んでいた。
小絲源太郎に師事。落ち着きのある色調で風景を描いた。

No17(成田):吉岡賢二 馬 昭和12年(1937):紙・着彩

千葉には馬に乗れる場所も多い。
この絵は三里塚にあった御料牧場を題材にしている。
生き生きとした三頭の馬の構図が、生命のよろこびを表している。
シンプルかつ大胆な馬の造形と力強い筆致が目に残る。

【吉岡賢二(明治39年~平成2年)】
東京都生まれ。野田九浦に師事。東京藝術大学教授を務めた。

【まとめ】

明治から昭和初期の画家たちが描いた千葉県の様々な懐かしい風景。
昔の千葉の原風景があり、人々の営みが隠れていました。
絵には画家の人生も投影している。
静かに眺めているとその絵に込められた画家の想いも見えてくるようです。

千葉市から北西部を描いた作品たち。変わっていく人々の暮らし。
その風景はかなり変わってしまい郷愁もあります。
明治から昭和へ、千葉県北西部の発展が目覚ましかったともいえます。

*他にも沢山の素晴らしい作品がありました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
*千葉県誕生150周年記念事業:房総の海をめぐる光と影とアート展「描かれた房総」パンフレットより一部引用・参考にしました。載せている絵の写真は、撮影が許可されていた作品を県立美術館展覧会場内で撮ったものです。