千葉県南総地域-「描かれた房総」-感想3-千葉県立美術館

No37(白浜):浅井忠 漁婦 明治30年(1897):キャンパス・油彩

浅井忠 漁婦
浅井忠 漁婦

冬の白浜・根本海岸。たも網を背にかけて籠を背負った漁婦が家に帰る姿がある。
寒さが厳しい外房州での漁。砂浜を歩く女性の逞しい姿が、強くもやさしい色で描かれている。

【浅井忠(安政3~明治40年)】
江戸に生まれる。佐倉藩士。
工部美術学校に入学しフォンタネージに洋画を学ぶ。明治美術会を創立。

No38(館山):時田直善 崖の観音 昭和40年(1965):紙・着彩

大きな絵。館山市船形にある大福寺の崖の観音を描いている。
デフォルメされたお寺の大胆な姿と後ろの崖との組み合わせには圧倒される。
(荒々しい自然の中での信仰という作者のメッセージも隠れている?)

【大福寺】館山市の仏教寺院。断崖絶壁に建つ寺院で岩に彫られた仏像がある。

【時田直善(明治40年~平成12年】
市原市生まれ。川端画学校に学ぶ。川端龍子師事し青龍社展に出品した。

No40(房総半島):椿貞雄 鋸山からみた房総半島 昭和23年(1948):キャンパス・油彩

鋸山の山頂から鋸南町方面を見下ろした構図。
太平洋に面して海岸線が遠くまで続く。
明度を下げた青い色が独特。
作者は北国生まれとのこと、海と海岸の崖がはっきり描かれる。

【椿貞雄(明治29年~昭和32年)】
山形県生まれ。岸田劉生に師事。船橋市の小学校で図画教師。

No41(君津市):杉原笛邦 南総九十九谷 昭和32年(1957):紙・着彩

鹿野山にある展望台周辺からみた九十九谷を描いている。
上総丘陵の山々が手前から奥まで延々とつらなる風景は壮大。
デフォルメされている山の形が独特なので不思議な景観でもある。
黄土色っぽい同系色でまとまられているのが印象に残る。

【杉原笛邦(すぎはらてきほう)明治43年~昭和44年】
香取郡下総町(現・成田市)生まれ。千葉師範学校で西沢笛畝に師事。
千葉県と題材にした風景画、動物、とりわけ牛をモチーフにした作品を数多く残した。

No42(姉ヶ崎):今井謙二 姉ヶ崎 不詳:紙・水彩

姉ヶ崎の風景。手前の丘から奥に見える海岸線を描いている。
木も花もシンプルに配置されて見晴らしがいい。
手前にある強い緑色の間に民家の家がのぞく。丘の先には姉ヶ崎の海岸線が続く。
砂浜が薄い茶色、空も茶色っぽい。
刻一刻と変化する海と空との様子を捉えているとのこと。
そういわれると空の色も納得できた。
(今は絵に描かれている海岸は工場地帯になっているそうです)

【今井謙二(明治42年~昭和48年)】
市原市生まれ。高等小学校で教鞭を執るかたわら、市原市周辺の風景を描く。

【南総地域の感想とまとめ】

作家の熱意が感じられる作品の数々は素晴らしいもの。
千葉県南総の風景には、常に海と山がありました。
海岸沿いや畑で働く人々の仕事や暮らし、文化・信仰も垣間見えました。

現代の騒がしい時代から今回の展示作品を鑑賞するとまるで別世界。

千葉県は半島のように太平洋に突き出ている形。地域によって特徴が異なります。
東総地域は太平洋と利根川の水に恵まれた土地、首都圏の魚や米・野菜などを支える生産地です。
北西部は東京に近い便利な場所、様々な施設もそなえます。湾岸はベットタウン。
南総地域は酪農などの発祥の地、海に囲まれ歴史ある観光資源を残します。

海と山、時代によって移りゆく風景に、時間を忘れて見入ることしばし。
絵の中・昔の人々の生活、その逞しさに想いをはせた。

千葉の歴史を強く感じられたのは貴重な体験でした。
日々の生活を忘れ一服の清涼剤になりました。

*今回ご紹介した以外にも沢山の素晴らしい作品がありました。
大変長くなりました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
*千葉県誕生150周年記念事業:房総の海をめぐる光と影とアート展「描かれた房総」パンフレットを参考にしました。載せている絵の写真は、撮影が許可されていた作品を県立美術館展覧会場内で撮ったものです。