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中小の意地-半沢倍返し「半沢直樹アルルカンと道化師」池井戸潤著-感想

池井戸潤著 半沢直樹アルルカンと道化師 講談社刊
を読んだ感想です。

池井戸潤さんの超有名な小説といえば、半沢直樹シリーズですね。今回初めて読みました。以前からのファンの方には信じられないでしょう。実は先日TBS放送ドラマ「半沢直樹」を観たのも初めてです。
何か時代に乗っていないようで恥ずかしいですね。
だからシリーズに関しての固定観念はありません。そんな目線で感想を書いてみました。

銀行ものという“サラリーマン世界の典型のような物語”に抵抗があったのも正直ありました。堅いドラマというイメージでしたが、先日のドラマを見て一変しました。演技が思ったよりも大袈裟で現実離れ。俳優も演技力のある方ばかり、歌舞伎界の人気者も沢山出ていて、演技の世界は幅が広いのだなあと思いました。
ドラマ上の配役の妙とはいえ、“ガチの異種かくとう演技戦”を見ているようで、目が離せない。しかも池井戸潤さんの小説がベース。これが現代のエンターテインメントなんですね。(今更ながら書いてて恥ずかしい(汗;)

TVドラマは、他のメディアや最近の個人の作るネット映像などに押されているので、変化していて当然なんですね。

さて小説とはあまり関係のない、よもやま話はやめにして、稚拙ですが感想を書いてみましたので、これから読もうとしている方の参考になれば幸いです。
ネタバレはありませんので安心してください。

あらすじ(冒頭から中盤)

半沢直樹が東京中央銀行大阪西支店に着任して数か月後の話。半沢は資金繰りに苦労する老舗出版社「仙波工藝社」の融資話にかかわる。大阪西支店は仙波工藝社にはM&Aをすすめインターネット関連会社のジャッカルが買収するのがベストという方針。仙波工藝社はそれに応じない。半沢は仙波工藝社の意思を尊重するため、経営改善策を模索する。
物語は仙波工藝社のファミリーヒストリーから絵画「アルルカンと道化師」の話へ、芸術家の物語も加わって、謎も深まり大きく動いていく。半沢直樹は、仙波工藝社を救うため絵画をめぐる謎の解決に奔走する。一方銀行内上層部は半沢をつぶしにかかる。半沢の怒りも頂点に達する。果たして半沢は上層部に倍返しできるのか。

感想

銀行内部のM&Aをめぐる話から池井戸節がさく裂する訳ですが、今回の話の中核は美術系の出版であり、題にある絵画「アルルカンと道化師」が大きな役割を持っている。自分は美術館で絵を見るのが好きなので、非常に興味がある世界でした。出版不況もあり、勢いのあるインターネット関連会社がM&Aに動くなど、今の時代環境が描かれています。しかし中小企業といえどそれぞれ働いてきた人や歴史がある。その中小企業の気持ちに力点を置いているのがいいなあと思いました。

さて半沢直樹はサラリーマンでありながら、自分の正義感であったり仕事のやり方を曲げずに生きている。そんなあり得ないけれども理想の人。サラリーマンの夢を実現している。
それも大きな銀行という組織が絶対の会社で。企業論理をかざす上層部からの圧力に屈することなく、半沢の反骨精神は増していきます。読者のワクワクが止まらないわけです。

半沢直樹の期待通りの活躍は、昭和の国民的ドラマ「水戸黄門」のようです。格さん助さんはいませんが、同じ意識を持った仲間が助けていきます。
違うのは悪人で、昔の時代劇と違って今は悪人も真黒ではなくてグレーなんですね。犯罪にならない程度の悪であり、逃げ方も知っているからやっかいなんです。その辺に時代の変化もあるし、戦うのには知恵が必要になっているんです。
クライマックスでの半沢直樹の啖呵は、そんなブラックな人間達を吹き飛ばしてしまう、最後の場面ではまるで「遠山の金さん」の裁きの場を見ているようです。
半沢がこれら時代劇のヒーローと違うのは、黄門様のように「偉い地位を使い印籠をかざして相手を謝罪させる力もない」し、金さんのように「悪人に紛れて彼らをだまし解決するという事もしない」で、高い志を持って仲間の協力を得る、勇気と知恵を使って解決することでしょうか。
時代劇の要素もあり、歌舞伎役者が人気を得るのも分かります。日本人の心に息づく正義感、権力の理不尽さを描くドラマ、この絶妙なミックスがたまりません。

結末は決まっているのでハラハラしながらも安心して読んでいける。この物語の舞台は現代で、刺激に溢れているドラマ。それが強調されるが、同時に「会社員のロマン」も描いている。完全懲悪劇の半沢直樹は「安心して見れるエンタメ」なんですね。

「半沢直樹アルルカンと道化師」は、そんなサラリーマン世界を描く企業ドラマに、中小企業のファミリーヒストリーを加え、さらに若き絵描きのドラマも絡んで、深い人間ドラマでした。感じ入る所が沢山あり面白い小説でした。

半沢直樹のキャラクター像~TVと小説の比較

半沢直樹の「TVドラマのキャラクター」と「小説の主人公」との違いを自分なりに書いてみました。

TVドラマの半沢直樹は見るからにスマートで仕事が出来る男、仕事も家庭もそつなくこなす。鋭さを持つゆえに切れすぎてしまい、組織では目立つ存在で攻撃されるような男だと思っていました
しかしこの小説「アルルカンと道化師」での半沢直樹は、違って見えました。
小説での半沢直樹は、仕事に関しての信条が明解でぶれない人なのはTVと同じですが、小説の半沢は仕事が出来るというより「そんな特別な感じは無くて、熱意をもって事に当たる人」が目立って見えました。そして「結構不器用な人」だと思いました。

周りからも一目置かれているのに、発言は単刀直入すぎて上司に煙たがられるので必然的に貧乏くじを引く。半沢の人なりを知っている人は彼が心配だし忠告もしたくなる。その弱点を隠さないがゆえに、賢く出世している上司にとっては、何かあった時の格好のターゲットになっている。

部下からは「ストレートな人だが、何か組織内で起こった時には正義をつらぬき頼りになる。彼の男気に期待している」と見られている。一方上司からは「仕事は出来るが不器用なところもあり、男気があるので責任をとらせることも出来る、スキのある男」という風に見られているのではないのだろうか。

そんな彼の「危ういところ」が小説からは垣間見えました。目立ちませんが、そんな人間的な部分も半沢の人気のある理由なのかもしれません。他の作品も読んでみたいと思いました。 【注意】個人の意見です。
*最後まで読んでいただきありがとうございました。

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