「♪この本なんのため 気になる本 見たことがある本だから 忘れていたことを 思いだすでしょう♬」
*久々にショートストーリーを書いてみました。
男二人の他愛のない話です。時間ある時に読んでみてください。
中堅会社員Bは先輩Aのアパートを訪問している。AはBにとって「大学の落語研究会の2年先輩」であり、当時は上下関係は厳しかったが、今は二人の関係はかなり砕けてきている。
Bは真面目なサラリーマンで3年ぶりに先輩A宅を訪れた。仕事で近くまで来たので寄ったのだ。
Aは落語に出てくるような人物。相変わらず気ままに独身暮らしをしている。昔話に花が咲いて途切れた時にAがつぶやいた。
A(先輩)「先日“本屋”を歩いてたらさ、みつけたんだよ本を」
B(後輩)「あれ珍しい。本を買ったんですか。」
A「いや」
B「本はその場で買わないともう二度と会わないかもしれないですよ。買えばよかったのに」
A「それで家帰ってしばらく悩んでいたんだ」
B「だから言ったでしょうが」
A「もう一度本屋に行った」
B「やっと買う気になったんですか」
A「そしたら無くなっていたのよ、本屋の棚から」
B「だからもう~じれったいな、後悔は先に立ちませんよ」
A「ほっとしたよ」
B「なんで。 Aさん大丈夫ですか、何か人生悩んでいます?」
A「いやさー、家帰ってね本棚見たらさ、同じ本があったのよ」
B「あらあら、忘れぽいなぁ。最初からいらなかったんですね。」「でもよかったですね、買わなくて」
A「うーん(渋い顔)」
B「何で悩んでいるんですか」
「それになんで自分で持っているのに、もう一度本屋に行ったんですか」
A「実はさー、その本は俺のもんじゃねえんだよ」
B「え~、ひょっとしたら盗んで来たの」
A「いやいや読もうと思ってさ、後ろの結論から読み始めたらさ、裏表紙にハンコが押しあった。それで思い出しちまったんだよ」
B「買った人でハンコを押す人いますよ。おかしくないですよ」
A「いやー、実は“図書館のハンコ”が押してあったのよ」
B「借りてたんだ‥」
A「うむ、それも(返却メモが挟んであって)借りた日は1年前だった」
B大声で「泥棒だ~。」
A「ちょっと待てよ。あんまり大きい声出すなよ。世間体が悪いじゃないか」
B「図書館から催促の電話はなかったの」
A「調べたら、らしいのはあった。しかし怪しいから出なかった」
B「怪しいのはあんたでしょうが。早く返せばいいじゃないの」
A「1年前なのにかっこ悪いじゃん。忘れてたみたいで」
B「言い方がおかしい」
A「それでお前に頼みあんのよ」
B「まさか僕に返して来いってか。」
A「図星」「友達に借りた本を持っている人がいるんだけど犯罪になりますかって聞いて欲しいのよ」
B「まどろっこしいな。」
A「泥棒は嫌なんだよ」
B「じゃあ何だったらいいのよ」
A「古本屋に行って買ったら“誰かが借りていた本だった”って言い訳したい。」
B「こういうところは頭働くんだよね。知能犯だ。」
A「お願いだから返してきてくれ。このままでは死にきれねえ」
B「大げさだなぁ」
A、Bを見つめながら言う「貸してたよなあお金、1枚~2枚~。 」
B‥‥ドキッ。
A「確か大枚3千円。全て揃えて返してもらおうじゃねえかい」
B「あれ3年前なのに~、よく覚えてますね。本借りたのは忘れてたくせに」
A「うるさい、行ってこい。お前の借金は無しにしてやるから」
B「悔しいけど‥‥、わかりました。仕事中だけども僕にも罪がある。行ってきますよ」
A「最初っからそういえば、可愛い後輩だったのに」
B「くやしいーっ」
A「そうと決まったら、早く行ってこい。住所はここだ。」
(メモを渡す)
B「はいはい」
A「これがそのブツだ。」
B「変な言い方しないでよ。本でしょ、本でいいんですよ。」
A「ただの本じゃない。「“言い訳”と“埋め合わせ”の日本偉人伝」だ。」
B「随分と面倒くさい本ですね。しかしなんだってこんな難しい本を借りたんですかね」
A「それが問題なんだよなあ」
B「僕が図書館に行って、もし正直に言って、許してもらえたとしてですよ、『どうしてこの本を盗んだのか』って聞かれたら、どう答えたらいいんですか」
A「お前も難しいこと言うね~。それに俺は借りたんだよ、何で盗んだに変えてんのよ。勝手にさ。」
B「(ぶつぶつ小声で)細かいこと気がつくんだから」
A「実はなんでその本を借りたのか覚えてないんだよ。別に興味があったわけじゃないんだ。面白いわけでもないし」
B「あのね~」
A「とにかく行ってこい! 」
B 本を持ってしぶしぶアパートを出て行く。
その間中Aは横になってラジオを聴いている。
Bは1時間後戻ってきた。
B「先輩行ってきたらなかったです」
A「なになに、何がなかったの」
B「図書館ですよ」「市に問い合わせしたら、1年前に閉めたそうです」
A「あたたたた~。これで泥棒確定しちゃったよ。」「うわあ~ん」
B「泣くな~」「でもAさんおかしくないですか。どうもAさんの記憶と同じく1年前ってのが気になる」
A「うむ確かに。」「‥‥待てよ。俺何で図書館に行ったのか今思い出したよ。」「そのとき隣町の甥っ子の家に立ち寄った時に、小学校の甥っ子が絵本「くま山のキンタロー」を読みたいって泣いて言うから、俺が図書館に借りに行ったんだよ」
B「そうしたら‥」
A「本がなかったんだ」
B「それでその難しい本を借りたんですね」「全然絵本と関係ないけど」
A「少し違うなあ。」
「ああ‥そうだ。」「図書館を閉めるから、一部の本を“無料で持ち帰りOK”ってことで置いていたんだ。それで“昔から勉強したいって思っていた日本史”の本を一冊もらってきたんだよ」
B「なんだよ~そういうことか」
「しかも嘘だな、昔から~の理由は‥‥」
A「あーすっきりしたあ」「これで胸のつかえがおりたよ」
「B君ありがとう。ご苦労さん。もう帰っていいよ」
B(しばらく無言)「疲れた‥。」「油売ってしまった」「これ課長にどやされるなあ」
A「なんか文句あんの。さっきの話だけど借金少し待ってやる。金できたら持ってきな 」
B「約束も訂正かよ」「ひでえ先輩だ。この時間どうしてくれんのよ ~」
A「埋め合わせするよ」
「その本が役立つから持っていきな」
(おわり)おそまつでした。
*最後まで読んでいただきありがとうございました。