【本のレビュー】たった独りのための小説教室-花村萬月著-感想-メッセージが熱い

「たった独りのための小説教室」花村萬月著 集英社刊の感想になります。
*若干のネタバレがありますが、書き方などのネタバレはありません。

最初に読んだら、花村先生のキャラクターがユニークで、語り口も面白く、先生の体験談が面白かった。もう一度読んだら“小説を書くための方法論”についても詳しく書いていることに気がつきました。読みどころが沢山ある本です。
また花村先生は多くの選考委員をされているので、“新人賞応募者へのアドバイス”はためになるものだと思います。
小説家を目指す人、小説を読むのが好きな人、業界の人、花村先生のファンなど、どんな方にもおすすめします。

自分なりに受け取ったメッセージ

・小説家の存在意義の変化
一般のメーカーであれば「いい商品を作る」で利益を得る。
人の役に立つことで生きていける。
ネット時代、小説の形も色々。何を志向するか?
大衆文学は興味本位で書く、純文学は自分の文体を確立し“純粋な芸術を志向する。
売れないと生きていけないのは同じ。

・小説のエンターテインメント化。
今は楽しみ方も多様化し競争相手も多い。
純文学は販売面から見たら中心にはなりにくい。
小説は消費されることを前提として、モノと同じような扱いになっている。

・安易に目指してはいけない小説家の世界。
文章を書くことは誰もが持っている能力。
それだけにプロスポーツなどに比べて参入のハードルは低い。
小説を書いてご飯を食べていくこととはどういうことなのか?
先生の体験談から語られます。

・センスを磨いて読者を魅了する。
歌手は歌唱力が必要で容姿を輝かせることで観客を魅了します。
声であり容姿が才能になります。最初から歌姫といわれ輝ける人もいます。
しかし天賦の能力を持っているのは一部。
小説家を目指す人は自分のセンスを大切にする。

・継続して書く。正しく続けることが大事。
自分にその適性があるかどうかも大事、“継続して書く能力”が求められる。
努力は正しい方向にしないといけない。
しかしただ努力すればいいのでもない。なんとなく進んではいけないという。

・自分の強みを冷静に分析する力が必要。
センスは方法論ではない、個性が現れる部分であり他者との違いも出てくる。
読んでもらうものとして丁寧に扱いたい。
自分の作品を第三者の目で見ることで分析できる。

・自分なりのリズムをつくること。
他の人の本をたくさん読んで勉強して、上手く書けた作品で文学賞をとり本を出すのは凄いこと。
ただデビュー後は、自分なりのリズムを確立できないと長く活躍するのは難しいという。

・視点を変えながら「物書きになる心構え」を書いている。
自分なりの覚悟と目標ができたら、「独り」という意味が明らかに。
独りで能動的に進むことの大切さを。
その厳しさこそが、自分の文章を鍛錬し自分を鍛える。

【感想】

小説家の一丁目一番地とは、「書いて書いて書きまくること」で見えてくる場所だと思いました。
そこまで到着できる「筋肉」ができてこそ、先に進めるし違う風景が見えてくる。
「独りで」というと内向きな側面もありますが小説家のオリジナルを熟成する点で必要不可欠だと思いました。読者が求めているのは小説家の個性であり、ごまかしで簡単に進める道はないようです。

ところどころに花村萬月流「金言」が散りばめれらています。
それを見つけて読んでいくのも一興かもしれません。
小説を書くための体験談に基づく方法論のみならず、小説家の生活・新人賞・出版界などの暴露話なども織り交ぜていて、色々な方向から書かれています。
「作者目線」「読者目線」それぞれの立場・視点で興味深く読みすすめられます。

自分が参考にしたいのは、原稿用紙「4行1単位=80文字」で段落を書いていくこと、無駄なく段落の主題をそのユニットに収めることです。
それが物語の地図をつくり、テーマを進める力を生むという。
リズムをつくりオリジナリティの元を作る。
ダラダラ書きから脱却できるといいます。
そのうえでキャラクターが生き生きと動き出せばしめたものです。
段落については試してみたいです。

【まとめ】

この本は今までの小説の書き方をノウハウ本的に理路整然と書いていない点がユニークだと思いました。話がちらばらず大事なところはぶれていない、言い切っている。

超実践的なお話ばかり。
・日記を書く。・小説にオチはいらない。・嘘をつくセンス。・文章の推敲。・比喩の使い方など。
くだけた話も混ぜながら語られるので、スッと入ってきます。
職業小説家の文章の組み立て方、その巧みさには感嘆します。

最初から最後まで先生の手の上で操られているような気もしました。
書き手として読むと、書くテクニックは難しいところも多々ありました。
小説の読み手として読むと、理解できることも多かった。

小説家を目指す人に対しての、花村萬月先生の「熱いメッセージ」がありました。
興味のある方は是非読んでみてください。

*最後までお読みいただきありがとうございました。
この記事は「たった独りのための小説教室」花村萬月著 集英社刊の感想です。