侍の生き様に笑って泣いて時を忘れた「侍タイムスリッパ―」インディーズ映画の感想

映画「侍タイムスリッパ―」を鑑賞した感想になります。
今回は茨城県土浦市にある“土浦セントラルシアター”で観ました。
「侍タイムスリッパ―」は時代劇へのリスペクトと愛情を感じる映画で面白かった。

安田監督は自前で3作目。侍のモデルになったのは5万回斬られた男と呼ばれた俳優でした。
他にも沢山の人びとの協力があり完成した映画です。

インディーズ作品として初めて日本アカデミー賞最優秀作品賞をとる。
池袋シネマ・ロサの1館での上映から始まり全国380館へと拡大上映になり大ヒット。など大変話題になりました。ここまであたった要因を考えてみました。
*若干ネタバレ有り、ご注意ください。

早くも2025年7月18日には地上波にてオンエアーされるそうです。

「侍タイムスリッパ―」
脚本の素晴らしさ、福本さんへのリスペクト

侍タイムスリッパ―
侍タイムスリッパ―

【STORY】
時は幕末、京の夜。
会津藩士高坂新左衛門は密命により長州藩主を討つ任を帯びていた。いざ両者が刃を交えた刹那、雷鳴轟き、新左衛門は現代の時代劇撮影所へとタイムスリップしてしまう。
守ろうとした幕府がとうに滅んだと知り愕然とする新左衛門。
一度は死を覚悟したものの「我が身を立てられるのはコレのみ」と刀を握り締め、鍛え上げた剣の腕だけを頼りに撮影所の門を叩く。「斬られ役」として生きていくために。

映画のパンフレットより

【主な登場人物】

会津藩士:高坂新左衛門役、主演「山口馬木也」
長州藩士:「冨家ノリマサ」
助監督:ゆうこ役、「沙倉ゆうの」
殺陣師:「峰蘭太郎」
近くのお寺の和尚・奥さん。
現役時代劇役者さん。
映画監督、映画スタッフ、関係者たくさん。

【物語をもう少し詳しく】

徳川時代の幕末、京都の夜、会津藩士である侍(高坂新左衛門)は、大きな屋敷の門の前で、長州藩士を討つために待ち伏せしていた。

門から出てきた長州藩士を見つけた高坂新左衛門は、その侍を殺すために道をふさぐ。
突然雨も降りだし、刃を交えようかと思ったその瞬間、雷鳴が轟いた。

ピカッ、バリバリバリ‥‥。

その瞬間、侍「高坂新左衛門」は現代にタイムスリップしていた。
時代劇の製作現場、現代の京都撮影所に。

高坂新左衛門は自分はどうなってしまったのか、理解できない。
しかし撮影所のテレビドラマ撮影は日々忙しく続く。
撮影所や関係者など廻りの人々の人情によって、彼は命をつなぐ。

高坂は自分が時を超えてしまったこと、幕府が滅んだことを知り落ち込む。
お寺の住職や助監督の「ゆうこ」ら周りの人は援助。
侍「高坂新左衛門」は自分の置かれている状況がみえてくる。

そこで見えたのは、夢に向かって生きる「ゆうこ」の姿だった。

高坂は皆の役に立ちたいと考えて「斬られ役」に自分の役割を見いだしていく。
そこには侍を捨ててでも今を生きようとする一人の人間がいた。

彼の謙虚な生きざまは、周りの共感を得て時代劇の映画関係者までに影響を与える。
高坂は新作の時代劇映画の大事な役回りに抜擢された。

しかし彼の気持ちは、ある人物の登場によって大きく変わる。
高坂新左衛門の頭の中は昔に戻っていった、その心は堅かった。

彼は再び侍として生きることを決意する。

なぜこれほどヒットしたのか?

日本アカデミー優秀作品賞を受賞したほどの物語の出来、脚本が素晴らしかった。
メディアや評論家がいうように、ストーリーがとても面白い。

安田監督は時代劇を作るのは初めてだったが、時代劇映画コンテストに参加するために色々試行錯誤した際に“侍が時代劇撮影所にタイムスリップするアイディア”を閃いた。
その侍のモデルには斬られ役で有名な俳優「福本清三」さんとの出会いがあり彼の生き様にかなり影響された。この出会いがきっかけで時代劇を撮りたいと考えたという。

【アイデアがいい】

侍が時代劇の撮影所のセットにタイムスリップする」というアイディアが発明レベル。

物語に無理がない、メリハリがある】

昔からタイムスリップしてきた人物が主人公は「侍」。
現代を織り混ぜながら物語の流れは無理がなく破綻しない。

演技も現代劇は自然に、時代劇は時代劇らしくと、見せ方に工夫とメリハリがある。

【キャラクターが明快】

各登場人物をどう配置したら面白いのか、どう動いたら生きるのかを徹底的に考えている。各キャラクター間ごとの場面、台詞のやり取りが練られている。

・時代劇ファンを納得させるに足る“役者さんのせりふ回し。演技と殺陣。”

・お寺の和尚・奥さんの浪速の人情が嬉しい、心意気に救われる。

・助監督の「ゆうこ」さんが時代劇好きで面倒身がいいのがオアシス。
ほんわかしていて一服の清涼剤。男性の話になりそうなところに割って入る。
現代の女性、しっかりしているも楽しい。

【絵的に組み合わせが楽しい、会話の掛け合いが楽しい。】

・侍の色黒・気難しい表情(むさい感じ)に対して、相手・連続時代劇の主役さんのかっこよくて爽やか・化粧の似合う色男な所。

・侍の悩み肩をおとしトボトボ歩く姿に相対して、助監督「ゆうこ」さんのシュッとした立ち姿。
侍の朴訥な喋りに対して現代おばちゃんの真っ直ぐな物言い、などの会話が楽しい。

・侍と殺陣師との太刀裁き、真剣勝負に手に汗を握る。目が鋭い。

タイムスリップを意識させなかった

時代劇自体が古いなのに、侍はそれよりももっと過去のものであるおかしさ。

・侍を演じる主役の役者さんが一見何歳なのかわからないのが楽しい。
妙にリアル、(江戸時代は寿命も短く、現代人よりも老けていたはず。)

・タイムスリップだといって時をもてあそんでいない。
人間ドラマを描くことで違和感を減らし、逆に“時間を忘れさせること”に成功した。

*【変わらないものがある】
侍の生き様に日本人の心を見る、見る人に気づきを与えた。
時代をこえて変わらぬ大切なことに気がついた

“侍の生き様”に笑って泣いた

・見せ所で登場人物に自分の意見を表現させる。明確に言いたいことを言う。
キャラクターが次第に強さを見せる。
侍の心の変化が物語の重要な転換点を担っている。

つまり昔の「侍の心」を描いていると同時に、(現代の)「自己主張する」場面も描いている。しかし侍の主張は現代人の主張とは「目的や質」が違う。

幕末から来た下級侍が、時空の流れに逆らって、正義や忠誠心を発揮する。
今も大切にしたい日本人の心を描いている。それは時代劇の良さを終わらせたくないという時代劇製作者の決意と重なる。

この映画は時代劇の良さを感傷的には描いていない。
時代劇の殻を破る挑戦もしている
。だから時代劇のファン以外にも伝わった。
人間ドラマとして評価してもらえたのだと思いました。

侍タイムスリッパー-パンフレット裏
侍タイムスリッパー-パンフレット裏

インディーズ作品の挑戦を支えたもの

【時代劇役者の演技・技術】
登場する役者さんが時代劇の基礎を持っている。少々くさい芝居も含めて芸達者なかたが揃っている。殺陣も皆さん上手。
高坂新左衛門役の山口馬木也さん、敵役の冨家ノリマサさん、殺陣師の峰蘭太郎さん、時代劇の脇役の役者さん達、皆さん素晴らしかった。
*峰さんは撮影所で福本さんの後輩だそう。

【京都の東映太秦撮影所が全面協力】
時代劇はリアルな舞台が必要、東映京都撮影所の協力も大きい。
撮影所は「ホンがオモロイ」といい受けたとのこと、かなり異例らしい。

*安田監督は自分の人生をかけてこの作品に取り組んでいた。

日本一の斬られ役「福本清三さん」との縁

安田監督はこの映画の侍のモデルは、時代劇の「斬られ役」で有名な「福本清三さん」だといいます。

福本さんはスターになることを夢見てこの世界に入った。日々殺陣を磨き出番も増えていくが壁にぶちあたる。途中で自分の生きる道を「斬られ役」に見出した。以来自分の仕事を誠実にこなしていく、その姿は謙虚でありみんなから尊敬された。

安田監督と福本さんとの付き合いは以前撮った映画からだった。監督は福本さんを尊敬していた。時代劇を考えたときに福本さんを侍のモデルとして使うことを思いついた。
なので「侍タイムスリッパー」に殺陣師役として出演してもらうつもりで脚本を渡していた。

映画製作を始める前に福本さんの病気が悪くなって、彼の出演は叶わなかった。
彼の死もあり安田監督は映画の制作を中断することにした。

安田監督は以前から「侍~」の制作にあたり、福本さんのマネージャーにも脚本を渡していたが、福本さんの死後、福本さんのマネージャーは映画の脚本を大変気に入っていたので、東映京都撮影所プロデューサーに脚本を持ち込んでいた。

中断から1年半がたっていた。

プロデューサーと京都撮影所スタッフはその本の面白さを知った。なんとか協力できないか考えた。色々知恵を出して普段使わない夏の時期を使うことで安くしてあげることを決めた。料金は格安でベテランスタッフがお手伝いをしてあげることに。
*安田監督が自腹で制作することを知った。彼らは時代劇はセットや衣装などで現代劇よりもお金がかかるのを知っていた。

映画制作に悩んでいた監督だったが、撮影所の協力で安くしてもらい安田監督は映画を作る決心がついた。

福本さんは40年以上京都撮影所で大部屋俳優として働いていた。脚本を読んだ彼は、映画「侍タイムスリッパー」のことを心配していたという。それがマネージャーにも伝わっていたのだ。なので京都撮影所に進言してくれた。
*「安田監督と福本さんとの縁」が、この映画の制作を後押しした。

「福本清三」さんの人柄は、礼儀正しく、律儀、謙虚でした。その姿は周囲の人からも尊敬されていた。「まるで侍のようだった」といいます
残念ながら福本さんは2020年に病気のため77歳で亡くなり、映画を観ることはできませんでした。もし彼が完成した作品を観て、日本アカデミー賞の最優秀作品賞と取ったと聞いたら、何を語ったでしょう。

この作品は安田監督の映画愛がなければ完成しなかったと思います。
制作が始まると監督は経費削減のため様々な役割をこなした。
その熱意やこだわりは時代劇映画のプロの関係者も動かした。女優の「沙倉ゆうの」さんは映画に出演するのと助監督として映画の裏方と両方をこなしていた。
完成まで数か月期間が伸びたけれども外部の人も協力し続けた。

「一生懸命やっていれば必ず誰かが見ていてくれる。」これは福本さんの口癖でした。
この映画での安田監督の一生懸命な仕事ぶりは、いろんな人に伝わりました。
ほかの人の協力を得たことで完成までたどり着けたのでした。

物語はよく練られ安易に説明しない。
撮影には安田監督の譲れない一線がありました。
セリフは最小限度に絞り出来るだけ映像で見せる。
多くを語らず“侍のように”背中で魅せる、そんな福本さんへのリスペクトも隠れていると思いました。

映画の面白さは俳優の知名度とか、いくらお金をかけたかで決まるものではない。
改めて強く思いました。

*ここまでお読みいただきありがとうございました。
個人的な意見です(上から目線なのはご容赦ください)

*次ページでは、今回訪れた“土浦セントラルシアター”について書いています。
興味のある方は読んでみてください。