村上春樹著「タイランド」感想-さつきが持つ心の中の石とは?

村上春樹全作品集 短編集Ⅱ 講談社刊より

【舞台】

タイ行きの飛行機
タイのバンコック・マリオットの会議場
山の中の高級ホテル
2階建て建物のある謎めいた敷地のプール

【時代】

先月に神戸で地震があったと書いてあるので1995年(平成7年)2月頃か。阪神・淡路大震災が起きたのは1995年1月。
(タイは熱いようだ)

【主な登場人物】

さつき

50代の更年期を迎えている日本人女性で京都生まれ18歳まで住んでいた、実務経験のない実務病理医。ボルティモアの病院で勤務歴ある。デトロイトでアメリカ人と離婚歴(3年前)がある。泳ぐことが好き、今は日本に住んでいる。

ニミット

さつきの友人男性の知り合い、観光ガイド兼運転手のタイ人男性。
主人はノルウェイ人男性で、宝石商をしていた。
33年間彼の運転手だったが、今は亡くなっている。
現在は独立してガイド兼運転手をしている。
60歳はすぎて痩せている、車は紺色のメルセデス・ベンツだ。

・タイランド:タイの英語名。
バンコック:タイ王国の首都、メナム河口近くにある。米・チークなどの貿易港。
ボルティモア:アメリカ東部、メリーランド州の都市。
デトロイト:アメリカ中部、ミシガン州の都市。
病理:病気の理論・病気の原理のこと。
甲状腺:内分泌腺の一つ。喉頭の前下部、気管の両下部に位置する。
等価:価値または価格がひとしいこと。
*広辞苑:第三版より引用いたしました。

【あらすじ~導入】

「さつき」は飛行機で日本からタイに来ていた。
バンコック・マリオットの会議場で甲状腺会議に出席するためだ。

さつきは、以前10年くらいデトロイトの大学病院で甲状腺の免疫機能の研究をしていた。
バンコック滞在中はそのデトロイト時代の友人と行動を共にしている。
デトロイトでは証券アナリストの夫と離婚した経験を持つ。
今は日本の大学病院で研究を続けている。

さつきは会議が終わった後、一人バンコックに残り近くのリゾート地で骨休めをすることにした。
ガイド兼運転手を頼んでいたのだが、友人の知り合いで来たのは「ニミット」というタイ人男性だ。

バンコック市内をニミットと観光をし始める。
さつきは、昔のことを話すうちに色々過去のことを思い出す。
小児科医の父がジャズ好きであったこと、母は父が死んでからジャズレコードとステレオ装置を処分したこと、父が亡くなってからさつきの人生が悪い方向へ変わってしまったこと。

そのうちニミットの話題は神戸の地震の話になり、さつきは神戸にすむ『ある男』のことを思いだすことなった。
その男性との関係は不明だが、男性の家庭が一文無しになってしまえばいいとか、子供をおろしたこと?を暗に表すような一説もある。

色々な人生経験がさつきの心になにかを深くとどまっていて、それを引きづっているようだ。
しかしニミットという案内人に会うことで、自分の『心の中の石』を指摘され、それに気が付く。
さつきの気持ちにもわずかに変化が生まれていく。

*以下ネタバレ注意!!

【感想】

比喩も多い文章で、とても読み解くのが難しい。

さつきは京都で生まれた。病理医として病院に働きはじめる。ある男性と関係を持ち子供を授かったが…子供はいないようだが具体的にはわからない。その後アメリカにわたり長い間病院で働いていた。そして今でもその男性を憎んでいる。

ニミットは、タイで33年間ノルウェイ人の主人と一緒に暮らしていた。主人を愛していたが、3年前になくなった。今は独立してガイド兼運転手をしている。今の生活環境は具体的にはわからない。

とにかく二人に共通していると思われるのは、さつきは日本にいた時に『その男性』を愛していたこと、ミニッツは『ノルウェイ人の主人』を愛していたことだ。

そしてさつきはその愛に固執するために憎しみを宿して、心の中に石を作ってしまった。
そしてその石は死ぬ準備をするときに邪魔になるという事だ。

最後ニミットはさつきに対して「言葉は捨ててください」、そして「夢がやってくるのを待つのだ」という。
その夢とはなんだろう。
文面から『希望』という風に解釈してみたが、おそらく的は射ていない。

*人は「愛した人との憎しみを消すこと」は簡単ではないのかもしれない。
でもその男への憎しみそのことは決してこれからの人生でプラスにはならないと小説は言っている、と思いました。

 

*最後までお読みいただきありがとうございました。