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村上春樹著 レキシントンの幽霊 感想

*村上春樹全作品集1990ー2000③短編集Ⅱより 講談社刊

舞台:アメリカ マサチューセッツ州ケンブリッジ
【マサチューセッツ】
アメリカ合衆国北東部・ニューイングランドの州の一つ。ニューイングランドとはイギリスの宗教的圧迫から逃れた清教徒が17世紀前半に最初の植民地を建設した地。【広辞苑 第三版 岩波書店刊 より一部引用いたしました】

登場人物:
主人公(日本人作家・ケンブリッジ在住)、ケイシー(建築家の男・50代前半独身でハンサム)、ジェレミー(ピアノの調律師・30代半ばの無口で背の高い男)、大型のマスチフ犬「マイルズ」。

*マスチフ犬
イギリスの原産、肩高さ75cmほど。土佐犬に似ている大型の獰猛な犬。番犬・闘犬・護身犬。
【広辞苑 第三版 岩波書店刊 より一部引用いたしました】

【導入】
日本人作家・主人公の独白から物語は始まる。ケイシーは建築家でボストンの郊外のレキシントンの古い屋敷にジェレミーと一緒に住んでいる。ケイシーは主人公(作家)のファンで一度あうことになった。主人公はケイシーの持っている古いジャズレコードのコレクションに興味もあった。高級住宅地の古いが3階建ての立派な家でBMWのワゴンがある。

ケイシーはスマートな着こなしで教養もあり話も上手。若いときは世界中を旅行して歩いていた。
彼は家でパソコンを使って建築の仕事をしている。彼の父親は精神科医15年前に膵臓がんで亡くなった。母は子供のころに亡くしている。主人公も月に一度程度遊びに行く関係になる。

ケイシーはロンドンに仕事に行く用事があった。ジェレミーも母親の具合が悪くて実家に帰っている。主人公は一週間ほど家の留守番を頼まれる。最初に泊まった夜の1時15分ごろ、2階の寝室で寝ていると下の居間から海岸の波の音のようなざわめき(人の話し声や音楽)が聞こえた。

一週間後ケイシーが帰ってきた。主人公はその夜の出来事については何も話さなかった。
同居していたジェレミーの母親が亡くなったという、彼との別れが確実になった。
一人を予感したのがきっかけで、ケイシーは大事な母や父が亡くなったときの事を話始めた。いつもより多弁に。

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*今回は理解はともかく比較的に読みやすかった。以下多少ネタバレになります。

【感想】
読み終えて、一番に残った言葉は「かたち」です。
ケイシーは能弁に語ります。「ある種のものごとは、別のかたちをとるんだ。それは別のかたちをとらずにいられないんだ」
強く心に響いたのは「基本的に人は寂しいなあ」ということです。
人間同士は「生き死に」がある以上、永遠に同じかたち(関係)はとれない。

ケイシーの母親はケイシーが10歳のときにヨットの事故で亡くなった、父もケイシーも精神的な準備が出来ていなかった。父は母の葬儀が終わってから三週間のあいだ眠りづづけた。そしてケーシーも父が亡くなってから二週間のあいだ眠り続けた。

必ず「別れ」は来ます。親しい関係なほどそれは普通に簡単には受け入れられないので、時間をおかなければいられない。父もケイシーにとっても深く眠ることが、「自分のかたちを変えていける時間」で自分を癒す唯一の方法だったのかもしれません。

そう考えると主人公が屋敷で体験した得体の知れない数多くの幽霊達のことも、屋敷で存在していたある種のものが、そのかたちを変えていっている過程としてとらえれば、全然不思議なものではないんです。

ケイシーのぽっかり空いた心の無感覚さと比べて、幽霊の不思議だけどにぎやかな方が、まだある空間に生きている証といえるのかもしれません。

主人公が最後に言っている言葉がそれを言い表しています。
「かなり奇妙な話であるはずなのに、おそらくはその遠さの故に、僕にはそれがちっとも奇妙なことに思えないのだ」

主人公もケイシーの人生を詳しく聞いてしまう(受け入れるのとは違う)ことは厳しかった。
それ故に離れるしかなかった、「ひどく遠い」という表現になったのかなと思った。