「蜂蜜パイ」村上春樹著-感想-淳平の気持ちに寄り添って見えたこと

*「蜂蜜パイ」村上春樹著を読んだ感想になります。
村上春樹全作品 1990-2000 短編集Ⅱより

【登場人物】

「淳平」
早稲田大学文学部卒の小説家、兵庫県西宮市生まれ男子校出身の36歳。沙羅のお父さん(高槻)とお母さん(小夜子)の同級生で友達。

「小夜子」
沙羅のお母さん。浅草の生まれ、老舗和装小物店の娘、早稲田大学文学部卒。

「高槻」(愛称はカン)
小夜子の旦那、沙羅のおとうさん、背が高く肩幅広い。長野出身で時計宝飾店の息子、高校時代はサッカー部のキャプテン。早稲田大学文学部卒。

「沙羅」
幼稚園児、感受性豊かな4歳の女の子。

【あらすじ、導入】

淳平と高槻と小夜子は大学の同級生でとても仲がいい。高槻は淳平と友達になり、つぎに興味があった小夜子に近づいて3人の仲良しグループが生まれたのだ。高槻は小夜子が好きだと淳平にいう。淳平も小夜子が好きだったので落ち込む。そんな淳平に対して小夜子はあなたが友達として必要という。3人の関係は続いた。
卒業後、淳平は短編小説家、高槻は新聞記者になる。高槻と小夜子は彼女が大学院を卒業した半年後に結婚する。その間も3人の関係は続いていた。30歳と過ぎて小夜子は女の子を妊娠するのだが、高槻と小夜子の関係に変化がうまれる、それは淳平にも決断を迫るものだった。

【感想】

とても読みやすかった。大学生の恋物語が出てきたあたりからだ。
三角関係から恋が生まれカップルが出来る、一人だけ余ってしまうのもよくあることで、「世界中の大学1年生がやるようなことをやった」というこの一節から一気に小説の世界に引き込まれた。

とっても「すっぱい」というか、つらいというか『淳平』の気持ちになってしまいました。
奥手の男の子の心情がよく書けているように思いました。
小夜子も淳平を失うのが惜しいのか、なにか女性の都合も見えてくる。

もし淳平が同級生3人の関係はこうあるべき(関係の輪を変えたくない)という理想で続けているとしたら、筆者はそんな経験は一人の男として生きていく事に対して何も得るものはない。と言っているように思えた。

人の都合に合わせていても、「自分の人生を歩むこと」や、また「最良の女性を見つける」事においても、自分がしっかり考えて行動していなければ進まないということだ。
『甘いとか酸っぱい』とかでなく、人生を噛んで飲み込んでみないと味も分からないし、その先の自分のためにもならない。人生は理想だけつくろって生きていけるほど甘いものではないのだ。

おそらく高槻と淳平では生き方の違いが大学時代にあった。
高槻の方が大学に入る前に子供なりに色々考えていて、より厳しい人生観をはぐぐみ育ってきたのではないかと思った。

悲しいかな人は友達の過去の生きざままで知ることはできない。
年が同じだからと言って表面だけ見て話があうと思っても、価値観を共有することとは違うのだ。

淳平は二人にかかわることで自分の人生を見つめることになった。過去の経験についても。

淳平は遅まきながら自分の人生の入り口に立つ決心がついたのではないか。
しかし淳平はまだ大人になりきってはいない。

淳平は自分を必要としている女性二人(小夜子と沙羅)を見つけた。
淳平が2人の女性を守ることで、成長していってほしい。
淳平は「今までと違う物語をつむごう」としている自分に気が付いたので、自分の殻を破る小説も書けるはずだと思いました。