母が恋しているのを見てなぜ息子は悩むのか「こんにちは、母さん」映画レビュー

今ヒット中の映画を観てきました。期待を裏切らない作品でした。
現代の家族を描く物語です。昭和の香りもします。
「こんにちは、母さん」山田洋次監督作品-松竹映画のレビューになります。
*内容については気を付けて書いていますが、若干のネタバレは有ります。
気にされる方は映画を観てからこの記事を読むことをお勧めします。

山田洋次監督92歳が現代をえがいている。
どのような作品なのか興味がありました。

こんにちは、母さん
こんにちは、母さん

*映画の予告では、

息子が大変な時にうちの母は恋をしている。
皆さんはこんな母のことをどう思いますか?

という映画の宣伝コピーがあります。
まさしくその通りの内容でした。

【感想】

時代は現代。
舞台は都会(オフィス街と下町)。
息子(大泉洋)は大企業の人事部長さんで50歳をまじかに迎える中年男性。
その母親(吉永小百合)は70台で地域の活動や恋に大忙し。

息子には妻と大学生の娘がいる。
妻はお掃除の専門家としてメディアで活躍している。
でも彼と妻と娘との間には色々問題があるようで‥。

息子は会社で中間管理職、ホントに悩み多い。
母親の地域の活躍、元気な姿に驚く。

そして驚いたのは母が恋をしていた事。
どうしていいのか分からない‥。

その前向きの姿に息子も自らの姿をみつめる。
悩んでばかりではいられないと決意する。
そういう話だと思いました。

下町の庶民の暮らしを描いて「山田洋次」監督に並ぶ人はいない。

観終わって「明日からまた頑張って生きよう」と思える。
周りにささえ・支えてくれる人々がいるから。
下町の母と息子の物語からそんなことを感じました。

山田監督は脚本から映画に参加して完成させるそうです。
その人情噺は寅さんで証明すみ。
物語の運び方は唸ることばかり、まさに「職人技」です。

笑いあり涙ありで、明日を生きる元気をもらえます。

俳優が上手

70代後半の大女優「吉永小百合さん」
その年齢や経験値の大きさを少しも感じさせない。
若々しい演技と、母らしい言葉回し、社会参加している時の現役感もしっかりと演じ分ける。

なにより「恋している女性」のセリフ・しぐさを出せるのは凄いの一言。
普通の人を上手に演じる凄さ。
年齢を感じさせず凛と演じ切るその姿には力があります。

息子役大泉洋さん」のサラリーマン像がリアル。
50歳ちょい前で大企業勤務。出来る人事部長さん像を上手に捉えている。
息子の母に対しての揺れ動く感情も見事。
ご本人にサラリーマン生活があるのかどうかは知りませんが、彼の天性の能力でしょう。
しぐさから微妙なセリフの言い回しまで破綻が無い。

牧師さん役寺尾聡さん」も亡き父名優:宇野重吉さんに似てきた。
感情を抑えた芝居は彼の持ち味、教会の牧師役も適役でした。

大学生の娘「永野芽衣さん」、下町にもあいますね。
現代の若者らしさを演じつつ次第に成長。
次第におばあちゃんを手伝っていきます。

*「YOUさん」の自然体の演技には驚き。
「田中泯さん」はさすが・渋い。
脇役がしっかりと物語をささえます。

舞台設定が懐かしい。

どこにでもあった昭和の家。

母の家「かんざき」は足袋の店、下町の庶民の家。
東京スカイツリーがよく見える。
路地裏に面した玄関は解放的、通り沿いには鉢植え植物が並ぶ多い。
和室の間に襖はあるがほぼ開いている。
畳からつづく縁台には風鈴とうちわ。
小さな庭があって縁台から出たり入ったり。
自宅が仕事場、足袋の職人だった夫の使っていた“古いミシン”があります。

家から花火が見える、とても素敵でした。

畳の部屋の横に階段があり。

「2階の音」が1階にいても聞こえてくる。
筒抜けなので上で言い争いが始まると、下にいる人はその音にハラハラする。
「フーテンの寅さん」のシーンでよくありました。

ドラマの中で「階段をうまく使う」のも山田監督らしいところ。

*いい意味で少し「昭和の香り」が有ります。
(サラリーマンの様子にも昭和っぽさが有り)

物語の転換点に「川」がありました。

東京の下町を流れる「川」は、古き良き時代を象徴するもの。
「コンクリートに囲まれたオフィス」と「自然の残る下町の実家」との対比。
*映画に登場するのは隅田川でしょうか?

・水辺は見ているだけでも心が落ち着きます。
自分を見つめ直す、本心も出てきます。

・「川沿いのシーン」は出会いの場所として使われています。
「人が物思いにふける場所・気持ちを切り替える場所」としてもいい感じです。

・「最後にあらたな物語が始まる場所」。
若い二人のデートの場所、未来につながるイメージとしても使われていました。

*毎年花火大会の開かれている賑やかな場所でもあります。

母と息子、ふたりの性格に親子を感じた。

母と息子のそれぞれのエピソード(事件)に対する二人の対応(行動)です。

母の方は「教会の牧師さんとの恋物語」であり、息子は「会社に在籍する友人にかかわる事件」です。
そのエピソード・対応に性格が出ています。

その行動から見えた二人の性格が、似ているなあと思ったのです。

その性格とは下記のような点です。

・誠実な所(他の人への思いやり)
・自分に嘘がつけないところ
・物事を先走ってきめてしまうところ
・憎めない人であるところ
です

主人公の性格は物語をすすめる大切なもの。
それは親子・どこか似ていて笑ったり泣いたり、心が和みました。
息子が久々に帰省し母の暮らしを知る。息子の戸惑いから始まり、母の昔とは違う生活を知る。
時間が必要で母の恋話を聞くに至っては、どうしたらいいのか?息子の反応も親子ならでは。

「親子を感じさせる」セリフが所々に用意されていて次第に物語に引き込まれます。
このあたりの演出が山田洋次監督の技術でしょうか。

大企業で活躍する息子を心配しつつも、自分の生活に一生懸命な母。
「たくましい母」がいて、「悩める息子」が少し甘えている。
そんな母と子の図式も楽しいです。

まとめ

現代はとても忙しく日々の暮らしで精一杯。
ちょっと立ち止まって周りを見回すと「家族の生きる姿」を発見する。
それは今まで見たことのない「身近な人の違う姿」であり。
その姿に触発されて自分を見つめ直す。

「年老いた母と中年になった息子の人生と、周りの人との人情物語」
笑って泣ける作品。ドラマの展開にちょっとハラハラしつつ最後に観る人の心を打つ作品です。

いいことばかりではないが、前を向いて生きよう と思わせる映画でした。

この記事の題にも書きました疑問ですが。

『母が恋しているのを見てなぜ息子は悩むのか?』という疑問に対しての答えですが、野暮と思いつつも少し書きます。
息子役の大泉洋さんが少し顔を斜めにして「やめてよ~」というセリフがあるのですが、その一言で表されていると思いました。
あくまでも男性「悩み多き息子」の目線としては、「世間的な目」を気にしている感じでしょうか。

一方女性側からしたら「なぜ驚くの?」「どうして恋したらいけないの」と思うのが当たり前で。
母である前に「一人の女性」としての主張なのでしょう。
その辺の男女の違いが、画面で表現されているのも楽しいなあと思いました。
あくまでも個人の意見です。皆さんの目で確かめてください。

*最後までお読みいただきありがとうございました。