2017年と2019年に公開された映画2本を観ました。同じU監督さんが中心になって作っている映画なので、2本を比較、映画の共感度をあげ「低予算で面白い映画をつくるためのヒント」について考えてみました。
*映画のタイトルは一部の記入にとどめています。タイトルは想像ください。一部ネタバレも含みますので注意。映画を観た後に読んでいただくのがベストです。
【伏線】小説・戯曲・詩などで、後の方で述べる事柄をあらかじめ前の方でほのめかしておくもの。出典:広辞苑第三版
共感度が大切
映画は「それを観て共感できるかどうか」が大切だと思っています。共感できる部分があれば話に入っていけるし。出来る部分がないとつまらないからです。
自分は「共感できる琴線に触れること」を体験したくて映画を観ています。映像作家はそこを目指し映画を作っていると想像します。「感情移入できる・できない」を分けるのは何なのでしょうか。
今回は2017年ヒットした映画と、2019年同じ監督含む3人の共同製作映画、二つの映画を比較して、その違いを調べてみました。
*個人的な意見です。
2017年公開「カメラ~」分析
【テーマ】「いい映画を作ろう」と頑張る人たちの熱意
【主役】売れない映画監督とその家族、映画スタッフ。
【物語(主旋律)】売れない映画監督の悲哀を中心にしている。ホラー映画造りの裏側をスリリングに描く。
【伏線】細かく練られている。しっかり見せて画面上で回収されている。
【コミカル】登場人物の必死さが伝わってきて、思わず笑ってしまう。極限まで詰められた無茶な舞台(設定)がそれを可能にしている。
【共感できたところ】
・映画監督の仕事の大変さと悲哀感・家族愛。必死でいい映画を作ろうとする俳優とスタッフの姿。夢に向かって決してあきらめないこと。やればできることを実際に見せた。
・説明らしき部分が少ない、全編を動き(絵)で魅せている。
【ヒットポイント!】構成上、冒頭から動きが速くて唐突、観ている人が困惑するシーンもあった。しかしそのついていけなかったシーンが、後半再度スクリーンに流されることで、疑問視しながらも観てくれた(ついてきてくれた)観客が後で納得(回収)できたこと。
【足りなかった?】舞台など色々違和感はあるが、逆にホラー映画のリアルさを生んでいた。キャラクターの乗り越えるべき障害にもなっていた。
2019年公開「イソ~」分析
【テーマ】復讐に燃える家族の物語。女子大学生目線で描く。不幸だが愛のある家庭と豊かだが仮面家族との対比。
【主役】女子大学生(亀のようにどんくさい?)、同級生の女の子(ウサギ?)【物語(主旋律)】女子大学生の家族が、恵まれた芸能家族へ復讐する話、それを利用する悪い連中が絡まってきて、謎が深まっていく。
【伏線】細かく練られ示されているが、物語が秘密裏のため抑えめ。一部は回収が難しいものもあった。(キャラクタの動きに違和感)
【コミカル】キャラクターの動きに少し面白さあり。
【共感できたところ】ハラハラした展開に意外性はある(若干無理な点もあるが‥)。暴力的になっていない。世の中の理不尽なところ。
【足りなかった?】
主人公家族の「復讐の動機」が殺人に至る理由としてどうなのか。後半主役の女子大生の行動の変化とその理由に疑問。
キャラクターの性格・描き分け。
個人がそれぞれ秘密を持っていてシーン(絵)が少し説明調になりがち。
2本をテーマから比較してみた
「カメラ~」
登場人物の目標が明確。良い映画を完成させる(成功)という目標に向かって動いているので、共感しやすい。
限られた状況に負けず、登場人物の折れない気持ち・熱量が上手に表現されていた。厳しい環境からか、キャラクターが工夫して自ら考えて生き生きと動いている。応援したくなる。
観客も「映画への共感」から最後は「登場人物の応援」に回るような不思議な感覚へ昇華していく。計算した以上にすべてがいい方向に転がって共感を増幅していく、まれなケースかもしれない。
「イソ~」
目的を最後まで秘密にしていて分からない(それがこの映画の命)ので謎解きは楽しめる。
テーマも同様だが、「イソ~」は目的は『復讐』することなのに家族の気持ちは隠れがち。怒りや恨みは正当な理由でない限り、「映画~」の前向きの目標に比べて共感しにくい。したがって登場人物を応援するのも難しい。
「伏線・ヒント」から比較したら違いが見えてきた
二つの映画は「テーマの違い」があるので単純に面白さでは比較できない。
しかし「伏線」という点で比較すると「違いが」少し見えてきた。
それは「イソ~」が「カメラ~」に比べて伏線・ヒントの貼り方が十分でないのではないのかという事です。
「カメラ~」は完成品と撮影の裏場面の2重構造で、観客が話のつじつまを合わせる時間があった、時間を巻き戻して説明できた。
一方「イソ~」時間列でドラマが進行していかないと意味がないので、実況中継的なドキドキ感が大切である。
なので「イソ~」は「事件の原因がここにあったのですという伏線」を最初から画面で見せることは出来ない。構成が違うのである。どんでん返しは最後まで秘密にしておかないといけない。
であれば「イソ~」は違った形で「事件のにおい」を出す方が良かったのかもしれない。
(例えば)よくありますが、どういう悲惨な事件があったかを暗に見せておくという事である。実際種明かしになるよと言われれば、そうかもしれない。でも観客がついてきてこその共感なので、話がどんどん進み「ついてきて、後でわかるから」というのは、観客によっては「共感させる」のは難しいのかもしれない。
テーマの向きとシーン構成によって「伏線の回収度」が変わる。
その「悲惨な映像を間でフラッシュバックする」ことで観客の謎を深めるのと、観客が推理するので話の結末とをつなぎやすくする。結果観客が主人公にも感情移入がしやすくなるのだ。
当然ですが、最初のところで事件の原因をにおわせてしまうと、ひどいことをした奴が憎いと観客も思うので、観客も推理をし始める。
なので作者もストーリーのボリュームとレベルとあげ、同時に登場人物を増やすとか、新たに舞台を増やしエピソードを加えるとか、どんでん返しを工夫しなければいけなくなる。なので人も時間もお金もドンドンかかっていく。低予算が難しくなっていく。
「カメラ~」のテーマと2重構造の素晴らしさが浮き彫りになった。この組み合わせに「低予算で面白い映画を作る」ヒントがあると思いました。
最後に予算が少ない映画を作るために『大切だと思う事』をまとめました
・舞台は狭く、説明少なく、絵(画面)で見せる。
・テーマとその向きが大切(目標と向きで共感度が変わるため)。
・「共感できる魅力的なキャラクター」が出てくる。
・物語は上手なウソがあって、ドラマチックで面白く。キャラの能動的な動きを邪魔しないこと。
・伏線を上手に張って回収度を上げる。
・観客を置き去りにしない。
(*順序に意味はありません)
伏線の回収度があがると映画への共感度が増して、面白くなる。
これが今回最後に言いたかったことです。受ける映画には大切だと思いました。(注)人件費フィルム代など考えてません。ただ言うだけは誰でもできますので、ホントに勝手な分析だと思います。
一生懸命作っている方に対して失礼だとは思いつつ、自分なりに意見を書いてみました。映画は好きでこれからも観ていきますのでご容赦ください。