*新刊「夏帆 The Tale of KAHO」を全部読んで感想を書きました。感想が長くなりましたので、前半(感想-1)と後半(感想-2)に分けています。
この記事は前回の感想-1の続きになります。先に前半(感想-1)を読むと下記の感想2がわかりやすくなると思います。(この記事の最後に感想-1のリンクを張っています)
【注意】ネタバレを含みます。本を読んだあとにこの記事を読まれることをおすすめします。
「夏帆 The Tale of KAHO」
(目次より)
第一章 夏帆とモーターサイクルの男
第二章 武蔵境のありくい
第三章 夏帆とシロアリの女王
第四章 守護天使、象の卵とスカーレット・ヨハンソン
おもな登場人物
夏帆:26歳女性、イラストレーターであり絵本作家。
町田:神田にある出版社の女性編集者、夏帆より4歳上。
モーターサイクルの男(佐原):40歳前の中年の独身男性、証券会社勤務。初デートなのに夏帆に対して失礼な態度をする。
ありくいの夫婦:ブラジルからきた。武蔵境の一軒家の床下に住む。ジャガーに二人の子供を殺されて日本に来たという。
ジャガー:ブラジルからありくいの夫婦を追いかけてきた。武蔵境の刃物を研ぐ「とぎや」の店主の体に入っている。
夏帆の母親:開業医の妻であり夏帆の母。50代の中年女性。
結婚する気はなかったのに子供ができた。子供のために結婚生活を送る。
夏帆の父親:まじめな性格、埼玉県浦和市で小児科医を長い間開業している。
シロアリの女王:日本に移り住んでいる。ジャガーと共謀して?夏帆の母親の体にすみついた。
スカーレット・ヨハンソン:昔夏帆の家で飼われていた大きな白黒の猫。すでに亡くなっている夏帆の守護天使。
「夏帆」感想2
*後半は登場した人物を分析して読み解いていきます。
物語の解決にはなりませんが、読む上でのヒントになれば幸いです。
夏帆は女性として解決できた
それでも現実と非現実の間で起きる出来事、それが自分の人生にとってどういう結果をもっているのかわからないけれど、前に踏み出すきっかけをくれた。
人生には、原因もなければ、結果もないことが起きる。
(それも現実なのだ。)
そして(人間は試練をうける)(避けては通れないことがある)
夏帆は勇気を振り絞ることで、女性である本当の母親の姿を見つけることが出来たのでしょうか。
(胎盤の中に何を観たのでしょうか?)
ありくいが夏帆を選んだ理由
ありくいの夫婦はジャガーに子供を襲われ、失意から日本に移り住んでいる。日本でもジャガーの影を感じる。(彼らの前にいくことは出来ない。)
ありくいの夫婦はジャガー(人間に入り込んでいる)を殺したいと思った。人間の世界では無理だと知る。(二本足で上半身を立てて、ありくいの武器である爪で殺すのは難しいと知る)
ジャガーを殺すには道具を使うしかないと知る、この世界では。
しかもジャガーは用心深く待ち伏せしている、卑劣な男である。
ありくいの夫婦は子供を2人殺されているので復讐を諦めない。
人間はアリクイと同じ哺乳類である。人間は胎盤が進化した事でアリクイに比べて手を発達させている。進化の過程で枝分かれしたのだ。
ありくいは人間は手の機能を使おうと考えた?。
夏帆にお願いすることにした。力は必要ないので女性でもいい、ナイフを使える彼女の5本指の手が必要だった。
夏帆はモーターサイクルの男と会わない事、そして彼が危険であることを知った。彼女の独り立ち気持ちと、ありくいの武蔵境に来てほしいという依頼が不思議にマッチした。
夏帆はありくいの力になろうと思う。
かなり覚悟はいったがありくいの望み通り瓶詰の運び屋と、ジャガーを殺すという役割を果たした。(結果を考える余裕もなかった)
(それは夏帆にとってどんな意味があったのだろう)
生来の好奇心の強さが勝ったのかもしれない。叔父さんの(武蔵境はやめとけという)理屈のないアドバイスにも反発した?
胎盤という運命
(自分は物語の序盤、「ありくい」の登場に戸惑った。読み進めても「なぜ、ありくい」が登場したのかは分からなかった。
しかし胎盤という機能を知ると、そこにヒントがあるのではないかと思う。
人間とありくいの共通点は、「哺乳類」
ありくいの夫婦はブラジルから来たという。ブラジルははるか遠い異国の地。日本の裏側にあると言われている。(地球の中を通ればつながってはいる)
「ありくい」は人間とほとんど縁のない動物だ。しかし動物の種という点で見ると「ありくいと人間は同じく哺乳類」に含まれる。
*【哺乳類は】胎盤を有する動物。
そのなかは「卵を産む単孔類」「袋で育てる有袋類」「胎盤で大きく育てる真獣類」の3つに分類される。人間は「胎盤で大きく育てる真獣類」・ありくいは「袋で育てる有袋類(ゆうたいるい)」。
(人間とありくいは同じ哺乳類の仲間、進化の大きな観点で見ると、遠い親戚のようなものでしょうか。)
真獣類(人間)と有袋類(ありくい)の機能の違い
人間とありくいでは、赤ちゃんを育てる機能(胎盤のあるなし)に違いがある。
【有袋類の特徴は】、「不完全な胎盤」と「育児嚢(いくじのう)」という2つの機能にある。
有袋類は(人間などに比べ)超未熟児での出産になります。
未熟児で小さく生まれるので母体への負担は減りますが、赤ちゃんは自力で母親の毛をよじ登り袋まで到達しないといけないので、前足の爪や筋肉はある程度発達している必要がありそちらに栄養を使う。
そのため有袋類は他の動物のように「ヒレ」や「翼」などを食物を捕まえる機能が作れませんでした。
有袋類は赤ちゃんが自力でお腹の袋へ登るため、前足が「爪のある5本指」の形を大きく進化させることができませんでした。
(つまり、人間の赤ちゃんは胎盤の中で時間をかけて、手の機能を発達させるのに比べて、ありくいの赤ちゃんは未熟で生まれ、母の袋で育てる。自力で母の袋に登る必要があるので爪が大きく鋭い。)
ありくいは爪は発達しているが、手の機能が犠牲にされている、その為道具を扱う能力は備わっていない。
同じ哺乳類としては悲しいこと。
生まれた環境でおきた進化の結果を「運命として受け入れざるを得ない」。
哺乳類としての「胎盤が生命のはじまり」になっているのは同じ。
(それは原因や結果を超えたもの)
現実と非現実の間で、小さな夏帆はもがきながら母の胎盤を探します。
(*動物はあっても運命に左右される、生物の頂点に君臨する人間も例外ではない。“運命という流れの中ではすべては等価である”と言っている。)
モーターサイクルの男
物語の始まり、モーターサイクルの男は突然夏帆の前に現れる。彼の言葉はとても失礼なもの。
一方自分とオーストラリアに行ったことがあり、蜘蛛だったり食物連鎖を語る。最初は動物の化身ではないかと疑ったが、中盤から後半ではシロアリの女王との関係の話もでてきて、夏帆はジャガーかもしれないと疑った?
この男との会話を通じて夏帆の嫌がる姿がある。
(男は夏帆との関係をどうしたいのかもはっきりしない。)
夏帆はモーターサイクルの男は危険な人間と思っていたがそうではなかった。(夏帆に迫る危険を知らせていてくれていた?)
モーターサイクルはエンジン音をイメージさせる。
音があるのは現実を生きている結果ともいえる。(“音が感じられる”という事は境界線の内側にいる証拠であったかもしれない)
冒頭にモーターサイクルの男が夏帆に示唆したのは、夏帆の顔や姿が見えていないという事だった。自分らしさ(色)が出せない、彼女が抱えている問題をついていた。
結果・意味を持たないもの
この小説が描いているのは、『結果を持たないもの』かもしれないと思い始めた。(結果は原因を含んでいるので意味を持たない)
それは原因はなくて、突然やってきて変化を強いることでもある。
この小説では「試練」という言葉で表現している。
読む人によって『結果を持たないもの』は何なのか、解釈は違うと思います。
自分が頭に浮かんだのは「運命」「宿命」「使命」でした。
この物語における夏帆の試練とは、「本当の母親の姿を探すこと、そのお腹に抱かれること」だったのだと思います。
夏帆自身が母の中に包まれていたので、(母の本当の姿を知ろうとすることは)“象の卵”を探すようなものだったのかもしれません。
(夏帆は人間、母の胎盤で育った)
スカーレット・ヨハンソン
『突然やってきて何かを強いるもの』は猫。
スカーレット・ヨハンソン(白黒の猫)は、『それ』を現実の世界でしていた動物。昔飼っていて夏帆の守護天使として出てくる、肝心な場面でいなくなってしまうのも楽しい。
自分がピンチの時に昔飼っていた猫が助けに来たらどんなに嬉しいでしょう。
シビア―な展開の中でのファンタジーです。
猫は作家さんで好きな方が多いと聞きます。猫は味方になりますが仕事を邪魔する時もあり。
『猫は人間と動物の境にいるような感じ、よくわからない』ところも魅力です。
スカーレット・ヨハンソンは、最後に登場する大事な役割を持っていますが、ヨハンソンは物語のテーマのひとつ「原因と結果をもっていない」訳ではありません。
猫は気ままに動いていますが、理由もあれば結果も期待しているのです。
(ここに作者のユーモアを感じました。)
仮に原因もなく結果がわからなくても生きてゆく、それが動物の運命なのかなとも思いました。
哺乳類の女性は「胎盤」という宿命を持っている。
(夏帆は母親の胎盤の中に“何を見つけた”のでしょうか)
【なぜ小説の中で絵本の話が語られる?】
夏帆もある使命によって物語を書いている?。
(原因もなく生まれ、様々な物語を紡ぐ、結果は見えなくても)
*いつもそうですが村上春樹さんの小説は色々なテーマを持っていると思います。足りない所は多いと思いますが自分なりの感想は書くことが出来ました。
最後までお読みいただきありがとうございました。
*「夏帆 The Tale of KAHO」村上春樹著 新潮社刊を読んだ感想でした。
【注意】個人的な感想です。
*もし夏帆の続編があるとしたら、村上春樹さんに(もっとファンタジー色を)(若い女性なのでロマンス)を期待したい。それと猫をもっと話に絡めてほしいですね。